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「彼」だけとは限らない
「突然の依頼」
「じゃあ、今日の帰りの会はここで終わり。あ、皆さんに1つ注意があったんだった」
涼しいから寒いへと変化してきた11月の終わり。日が暮れるのも早くなってきて、5時でも十分暗くなった。
「最近この辺りで不審者がよく出るみたいです。黒い帽子を被ってサングラスをし、真っ黒なコートを着た身長170cmくらいの男性。5時過ぎくらいに暗くなったところで、女子児童に無言でつきまとってくる、と警察の方から連絡がありました。特に女の子は夕方気をつけてね。それじゃあ...」
不審者か...。冬は暗くなるのが早いからな。5時に帰んなきゃなんて..って思ってるけど、こういう話聞くと流石に怖いな。
「朝ちゃん。帰ろー」
「おっけー!」
まぁひとまず帰るか。今日はなんてったって早帰りの日!
「今日私の家大丈夫だけど来る?」
「行く行くー!ゲームやろうよ」
私と京ちゃんがランドセルを背負って教室の扉を出たとき、1人のメガネをかけた男の子が声をかけてきた。
「あの...」
このおどおどした様子、どっかで...
「あ!もしかして4月の開かずの扉のときの...」
私の隣で、京ちゃんも思い出したような表情をしてる。正解みたいだ。
「はい。実はこの子のことで隆司くんに相談したいことがあって...」
横を見ると、メガネの男の子同様、もじもじしている、ピンクのランドセルを背負った女の子がいる。
「隆司ね。ちょっと待っててね」
そう言うと京ちゃんは、教室の中に戻る。と思ったらすぐ帰ってきた。
「ごめんね。隆司は今ね、担任の今村先生と話してるみたいなの。少しだけ待ってくれるかな?」
京ちゃんの言葉に無言で頷く2人。もしかしたら、何で教室でるときに気づかなかったんだ、って思われてるかもしれないな。早帰りで浮かれてただけだけど。
「どうしたんだい?僕の名前が聞こえたけど」
振り返ると扉を開けて隆司が出てきた。今村先生も一緒だ。
「今日休みの宮浦君の連絡帳を届けてもらおうと思ってたんだけど、神島君になにか用事があったのかな?」
そういや京人今日休みだったな。
「え、えっと。実はこの子が―」
「やっぱりいいよぉ。私もう平気だし」
「でも...」
メガネの男の子がなにか言いかけたのを女の子が止める。
「なにか話があるんなら教室入ってもいいよ。先生も聞いてあげるし」
そういって2人を教室内に誘導する今村先生。さすがベテラン(って言うと本人は怒るけど)。このままじゃ女の子も結局困ったままになりそうだと察したみたいだ。
なるべく2人にプレッシャーを感じさせないように、ということで私と京ちゃんは教室の外に出て、隆司と先生が2人の話を直接聞くことにした。まぁ気になるから扉の窓からこっそり覗いてるんだけどね。
私達が息を潜めてると、緊張が解けてきたのか男の子が話し始めた。
「えっと、この子がね、この間変な黒い男の人にね、追いかけられたんだって」
その言葉に思わずお互いを見る私と京ちゃん。これって、さっき言ってた不審者のことだ。
今村先生も事の重大さから顔の色を変えて尋ねる。
「え!?大丈夫だった?」
「う、うん。お家が近かったから...」
女の子はつぶやくように答える。
「とっても怖かったよね」
隆司が優しく頷く。こういうところはちゃんとしてるのよね。
「そ、それでさ。隆司君にお願いがあるんだけど...」
男の子が隆司の顔を覗き込むようにして頼みこむ。
「その男の人が誰か、見つけてほしいんです」
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