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『本当に彼は名探偵?』
「で、ここが理科室ね。ほら、あそこらへんでも改修工事してる通りこの学校ちょっとぼろいからさ。特に、ここらへんは扉開けづらいけど壊れてるわけじゃないから気を付けてね」
「そーなんだ。ありがとう」
今は放課後。朝からいっぱい話して仲良くなった京華ちゃんと宮浦君に、学校の案内をしてもらっている。4階にある私たちのクラス、4年2組から始まって、向かいの棟の2階にある理科室までやってきた。
さっき京華ちゃんが言った通り、昼丘小はお世辞にもきれいとは言えず、現にあちこちで改修工事をしていた。
「まぁ理科室でやる実験なんてどれも結果が明らかなものばかりだけどね」
この声はついてきた神島君。朝の衝撃の一言から私は彼とまともに話してない。
それまではちょっと変わってる人だなぁ、くらいにしか思ってなかったけどあれはさすがにあり得ない。
「名探偵」だよ!?そんなこという小学生、もう世界でただ一人でしょ。さすがにこんなこと言う人とは関わらない方がいいな。
とはいえあの発言を気になった私は京華ちゃんに耳打ちで聞いてみる。
「そういえばさ、神島君が朝自分のこと『名探偵』とか言ってたんだけど、そこまでぶっ飛んでる人なの?」
「あぁ、あれね」
京華ちゃんは呆れた顔で笑う。でも彼女の口から出た言葉はまたしても衝撃だった。
「なにが嫌かって、それが本当だからね」
「え...」
私は開いた口が塞がらない。でも隣で聞いてた宮浦君もうなずいてる。
「まぁ確かに信じられないけどね。
でもこいつ、超が何個もつくぐらい頭いいし、推理小説ばっか読んでるからね」
いやそういう問題じゃないでしょ、という言葉を飲み込みつつ私は神島君の方を振り返る。
「何?僕が名探偵だって話のこと?
まぁ信じてもらえないのも無理はないけどね。でも事実なんだからしょうがないじゃないか」
だめだ、信じられない。第一現実世界で事件なんて起こるはずがない。
「それはね、君が今まで事件が起こったことに気づいてすらいないんだよ」
私の心を見透かしたのか、神島君が言う。
「じゃあ具体的にはどんな事件を解決したことがあるの?」
「そうだな‥小さいのだったら、電車内で京人のタオルが消えた事件だったり、学校のテスト内容が流出した事件だったりあるね。大きいので言えば万引きの冤罪を暴いたり、銀行強盗を未然に防いだこともあるかな」
「...」
後半のなんか小学生とかそういう問題じゃない。でもどうやらこれらの話は本当みたいだ。京華ちゃんと宮浦君がうなずいている。
「まぁいずれ分かるさ。僕はちょっとWater Closetへ行ってくるよ」
そう言うと神島君は廊下の向こうへと歩いていった。
うぉーたーくろーぜっと?
またわけのわからないこと言い始めたな。
「あぁ言って格好つけてるけどトイレに行くってことだから。ウォータークローゼットがトイレのこと。ほら、よくトイレにWCって書いてあるじゃん」
へー。でもなんでわざわざ変な言い方するんだろう。まぁ、神島君だからって言っちゃおしまいだけどね。
「隆司、少しだけ海外にいたことがあってね。それ以来ちょくちょく英語を話すの」
「海外行ってたんだぁ。あんな性格もそれ以来?」
「あーどうだったけなぁ。確かもっと小さい頃からだったような‥」
「まぁ隆司の話なんかしててもなんの得にもならないからさ。次はPC室に行こ」
そう言って歩いてく京華ちゃんについていく。ここまで来るとちょっとは神島君が可哀想に感じるな。
「ねぇ来て来て!なんかすごいことになってるよ」
角を曲がった京華ちゃんが戻ってきて私と宮浦君に呼びかける。
「どーしたの?」
私達も京華ちゃんの方へ駆け寄って角を曲がる。
「え?!」
どうしたんだろう。1つの部屋の前に人だかりができてる。あそこは何の部屋なんだ?
「あそこは資料室。といっても物置みたいになってるけどね。古くなったパソコンとかで散らかってるよ」
私の気持ちを察したのか宮浦君が教えてくれる。
「一体どうしたんだろうね?」
「あそこは昔から開かずの部屋って噂があってね。なんかあったんじゃないかな」
うーん。神島君の言ってた事件とやらだろうか。とりあえず扉の前の人達の会話に耳をすませてみる。
「お前が鍵壊したから開かなくなったんじゃねぇのかよ」
「違うよぉ。僕は普通に扉開けようとしたんだよぉ。でも開かないの」
そう言って、メガネをかけた小柄な男の子が扉をガタガタ言わせる。たしかに開かないみたいだ。
「なるほど。あの小さい子が鍵を壊しちゃったせいで、本当の開かずの部屋になっちゃったのね」
京華ちゃんが呟く。
揉めてるのは私達と同じくらいの年の男の子たち。いや、ちょっと小さいから3年生かな?
「おーい。どうしたんだ?」
突然の背後からの声にみんなが振り返る。大柄な男の先生だ。
「先生ー。コイツが鍵壊して資料室に入れなくなったんですよ」
「だから僕は壊してないって」
メガネの子は今にも泣きそうだ。
「あぁ、ごめんな。先生が鍵を預けたんだけど、確かにここの扉開けづらいもんな。どれどれ」
そう言うと先生は私達をかき分けて、扉に手をかけた。
「あ、こりゃ確かに開かないな」
鍵をガチャガチャ言わせるけどやっぱり開かないみたい。
「えーいこうなったらぁ」
ばっーん!!
先生、無理矢理扉を開けちゃった‥。
「あの先生、いつもあんな感じなんだ。何でも力ずくで」
「ああいうのを脳まで筋肉になっちゃった脳筋っていうんだよね」
「まぁ扉も開いたことだし隣のPC室に行こっか」
京華ちゃんが言ったその時だった。資料室の中がざわめき始める。なんだろう?
「ちょっと行ってみよっか」
宮浦君の呼びかけに応じて中に入る。
小さい資料室は集まった生徒と脳筋先生で窮屈だ。
その人たちが扉の目の前を注目してる。
私も背伸びをしてようやくそこに何があるかわかった。
いわゆる突っ張り棒だ。それも折れてる。
「扉が開かなかったのはこれで押さえられてたから‥」
思わず口からこぼれる。
私は反射的に周りを見渡した。
扉の向かいの窓には鍵がかかっている。第一ここは1階でもなければ、ベランダもないので人の出入りは無理だ。
あとは扉の上の小窓が開いてる。けど、人が通れるほどの大きさじゃない。
これってつまり‥
「いわゆる密室ってやつ‥‥?!」
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