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『ただの密室されど密室』
「とりあえず始めから話を整理しようか」
脳筋先生もこれはただ事でないとわかったのか、一度私達全員を資料室から出したのだ。
「えっと、まず僕が先生から鍵を受け取って資料室から昔の図工セットを持ってこようとしたんです。あの、先生から頼まれたのです」
メガネの子がボソボソと喋り始めた。
「でも鍵を開けても扉が全然開かなかったんです」
「そんときに俺たちが来たんだよ」
こう話すのは、メガネの子を責めてた子たち。
「てっきりコイツが鍵を壊したもんだと思ったからさ。やっちゃったんだなって思ってたんだけど‥」
そう言うと男の子たちは口をつぐむ。
それもそのはず、だって扉が開かなかったのは突っ張り棒が原因だったんだもん。
資料室の扉は普通の教室と同じ引き戸のタイプ。状況から察するに、突っ張り棒が、扉を動かないようにしてたんだと思われる。
それを、脳筋先生が無理矢理扉を開ける形で折り曲げたのだ。
「あとは、先生も見てた通りです‥」
メガネの子が再び呟く。でもその声は今にも消え入りそうだ。この子が悪いわけじゃないのにね。
「うーん。あの資料室はあそこの扉しか出入りする場所がないよな。一体誰があの突っ張り棒で、しかも何のために扉を開かなくしたんだ」
先生がドラマの台詞のように呟く。
私は肝心なことを忘れていることを指摘した。
「あの‥一体どうやって外から突っ張り棒をつけたんでしょうか‥」
その場が静まり返る。
え、みんなそこに驚いてたんじゃないの?
「あー確かに」
「言われてみればそうだね」
「わかった、ゆーれいだよ、ゆーれい」
周りが再び騒ぎ始める。
「せんせー」
その時PC室から一人の男の子が出てきた。
「ん、どうしたんだい」
「その棒、多分PC室の掃除ロッカーのやつだよ」
ん?掃除ロッカー?棒って突っ張り棒のことだと思うけど。
「どういうことなの?」
私は京華ちゃんに尋ねる。
「あぁ、うちの学校では、掃除ロッカーの中に2本突っ張り棒を使って、その上に板をのせて棚を作ってるの」
なるほどね。確かに、ここから見えるPC室の掃除ロッカーはぐちゃぐちゃだ。
「これじゃあ、誰が、何のために、しかもどうやってこんなことをしたのかって問題が出てきたじゃないか」
脳筋先生が頭をかかえる。でも、本当その通りだ。
さっきも言ったように資料室への出入りは扉からしかできない。一体どうやって突っ張り棒をつけたっていうんだ。
「隆司のやつどこいったんだ‥」
「そうよ、肝心なときに限っていないんだから‥」
京華ちゃんたちが不満をもらす。
「神島君だったら、一瞬でどうやったかわかるものなの?」
「あぁ。あいつなら、誰が、何の為に、どうやって、密室をつくったのかすぐ分かると思うよ。『おいおい、こんなのもわからないなんて君たちはどうかしてるんじゃないか?あぁ、僕のLevelが違うだけか』ってね」
言いそう‥。
それに、私はこの状況に衝撃を受けてたけど、確かになんのためにこの状況を作ったのかもかなり疑問だ。
「資料室って何か貴重なものでも入ってるの?」
「いいや。さっきの子が言ってたみたいに、昔使ってた道具とか、古いパソコンがあるだけだよ」
「そうだよね‥」
確かに、目の前の資料室は物置っていう名前に変えたほうがいいくらいだ。
「まぁとりあえずここは先生に任せて、皆は早く帰りなー」
脳筋先生が私達を帰そうとする。いつの間にか、人だかりはどんどん増えてきているみたいだ。
「やっぱり開かずの部屋って本当だったんだよぉ」
「いや、これはきっと透明人間の仕業だ!」
「何馬鹿なこと言ってるの!これは妖精さんの仕業だよ!きっと悪い何かを閉じ込めてくれてたんだよ」
「君たち、よくそんな非科学的、非論理的な発言ができるね」
先生が帰るように言っても、低学年の子たちの騒ぎは止まらない。まぁ、中には私達くらいの年の子もいるけど‥ってぇ
「神島君!?」
「「隆司!?」」
私達3人は一斉に振り返る。
「やぁ、君達。一体この人だかりはなんだい?」
そう言って彼はこっちへ向かってきた。みんなが神島君から逃げるように道をあける。うーん。やばい人って認識はみんなあるみたいだ。
「あれ、君は噂の神島君かい?」
「いかにも、この僕が名探偵の神島隆司です」
そう言うと恭しくお辞儀をする。
周りからは拍手と歓声。
「りゅーじ君が来た!!」
「てことは、もう安心だね」
え?何、神島君ってこんなに有名なの?
「ほら、朝花ちゃん、そんなに驚いた顔しない。僕は、名探偵なんだよ。そうだ、せっかくだから君に状況を説明してもらおっかな」
「別にいいけど‥」
私は動揺する心を落ち着かせて、起こったことを細かく説明する。
「‥てこと。どう、こんな感じでいい?」
「あぁ。ちなみに資料室の状態は事件当時のままかい?」
「まぁ人はいっぱい入ったけど別に荒らしたりとかはしてないよ」
「ありがとう。ちょっと確かめることがある」
そう言うと神島君は資料室の中に入った。私もあとに続く。
「僕の考えが正しければ‥」
そう言うと、折れた突っ張り棒を使って何かをし始めた。
一体何のつもりだろう‥。そう思って神島君の手元を背後から覗き込んだときだった。
「え‥!?」
私は思わず声を上げる。だって‥。
「君もどうやらおかしいことに気づいたようだね」
神島君が振り返ってにやりと笑う。
「さぁ皆さん。一旦外へ出て。
こんな狭苦しいところじゃ折角の推理ショーが台無しだよ」
そう言うと彼は立ち上がって私達を外へ出す。
「ということは、誰が、なんのために、どうやってこんなことをしたのか、君にはわかったのか!?」
脳筋先生が呆気にとられる。いや、驚いているのはこの場にいる人全員だ。
「えぇもちろん。
僕levelの人間になればこんなの楽勝ですね」
チッチッ、とでも言うように指を振る神島君。
「では結論から。
僕の格好良い推理を聞いてもらおっかな」
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