開かれていた扉

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『隆司の謎解き‥?』 では結論から。その言葉から少し間を開けて、神島君は続ける。 「ということでね、扉があかなかったのは突っ張り棒が原因ではないんだ(・・・・・・)」 「...?!」 どういうこと?といった空気が漂う。再び周囲がざわめき始めた。ただ、私はなんとなく予想がついていたのだけど。 「まぁまぁみんな少し落ち着いて。それじゃあ状況を整理してみようか」 神島君が人差し指を伸ばす。 「まずこの男の子が鍵を使ってこの扉を開けようとしたんだね」 そう言いながらメガネの男の子を示す。彼はコクリとうなずいた。 「だけど扉が開かなかった。そこへ君たちがやってきたんだね」 神島君が別の男の子たちの方を見る。その子たちも静かにうなずいた。 「で、鍵を壊した、壊してないで騒いでるうちに、人が集まってきたんだよね。最終的には、先生がやってきて無理矢理開けた。で、合っていますか?」 「あぁ、そうだよ。それにしても、突っ張り棒が原因でないって一体どういうことだい?」 「まぁ落ち着いてください。順序立てて説明しますから」 神島君が焦らせる先生をなだめる。 「その後、中に入ると、この折れ曲がった突っ張り棒があった」 そう言うと神島君は後ろに持っていた突っ張り棒をみんなに見せる。 「確かにこの状況では、突っ張り棒で扉が開かなくなったと考えられるよね。ところが、これはおかしいんだ。この資料室の出入り口はこの扉だけ。一応反対側に窓はあるものの、ここは2階。まぁどちらにせよ、さっきの朝花ちゃんの話によると、鍵は閉まってたみたいだけどね。つまり、どう考えても突っ張り棒を扉につけるのは不可能なんだ。だから、扉が開かなくなったのは突っ張り棒が原因じゃないってわけ」 当たり前のことを当たり前のように言う神島君。 「でも実際に扉は簡単には開かなかったけどな‥」 そう言うと脳筋先生は大声を上げた。 「わかった!本当は中に誰かが隠れてたんだ! で、僕が思いっきり扉を開けてみんながこの教室に入っていったとき、どさくさに紛れてでてきたんだ」 おぉ!確かにこの説明には矛盾がなさそうだ。それに...。 「残念ですが先生。それでは少し疑問点が残ります。まず、どこに隠れていたのか、という疑問。確かに資料室は物置みたいになっていますが、中にあるのは昔使ってた図工セットなどの道具やパソコン。たとえ1年生でも隠れるスペースがありません。それに、仮に隠れていたとしても、こんだけ人がいたら一人くらいはその子が出てくるところを見てるでしょう。こう考えると先生の説明には少し無理があるんですよね」 「...」 見るからにうなだれる脳筋先生。でも、この考え方じゃダメなのか。いい線いってたと思ってたんだけどな。 「じゃあ続きを。といってもはじめに述べた結論通り、扉が開かなかったのは突っ張り棒が原因じゃないんだよね。ところで朝花ちゃん」 「へぇ!?」 急に声をかけられ裏返る声。 「さっき僕が突っ張り棒を扉に当ててたのを見たよね。あれで違和感を感じてたと思うんだけど折角だからその違和感、教えてくれる?」 神島君に向いてた視線が一斉にこちらへ向く。 自己紹介以上に緊張するけど頼まれてしまったからには仕方ない。 「えっと...。その突っ張り棒じゃ扉は閉められないんだよね(・・・・・・・・・・・・)」 周囲から声が上がり始める。 「え?!どういうこと」 「何いってんのこのねーちゃん。でもりゅーじくんのすいりきーてるとそーなのかな?」 「はいはい、落ち着いて。まぁこれ見たらみんな納得するでしょ」 そう言うと彼は突っ張り棒を扉に当てる。突っ張り棒は折れ曲がった状態で扉にぴったり合う。そう、「折れ曲がった状態」で。 「これじゃあ...」 「そう、扉が開かないようにできないんですよ」 脳筋先生が漏らした言葉に、神島君が反応する。 ここでもう一度資料室の扉について整理しておくね。資料室の扉は普通の小学校の扉と同じ引き戸のタイプ。だから、突っ張り棒を、引き戸がしまわれるところに突っ張らせておけば、理論上扉が開かないようにすることはできる。でも今回の場合は無理だ。折り曲げた状態で、扉とぴったり。つまり、もともとの状態じゃ突っ張らせることはできないのだ。 私はこれに気付いたからこそ、扉が開かなかったのは突っ張り棒が原因じゃないだろうって気づいたし、先生の説明のように中に人がいればその人が押さえてて扉が開かない、という可能性も考えた。でもこの説明も先生のと同様、確かにおかしな点があるんだよな。 「じゃあさ、なんで扉が開かなかったのかい?」 「実は、その答えはすでに一度出てるようなものですよ」 そう言うと神島君は、鍵を持っているメガネの男の子に手を向けた。 「ちょっと鍵を見せてくれるかな」 「う、うん」 メガネの男の子がおどおどと鍵を差し出す。 受け取った神島君は、鍵を一目見ると話を続けた。 「あぁ、なるほどね。 いや、扉が開かなかった原因が2つ考えられたんだけど、これで扉が開かなかった原因がわかったよ。その犯人は‥」 神島君は一呼吸置くと言い放った。 「先生、あなたです! ってまぁ、これは過失なんだけどね」 「ちょっと待ってよ神島くん。一体僕が何をしたんだって言うんだい?」 そういう脳筋先生に神島君が鍵を差し出す。 「先生がこの鍵をこの子に渡したんですよね。よく見て下さい。 これ、PC室(・・・)の鍵ですよ」 「え!?」 先生は受け取った鍵を見て固まる。 「ぼ、ぼくとしたことが‥」 いやいやあなたそういうキャラじゃないでしょ。 「ちなみにもう1つの可能性ってのは鍵が壊れてたってことなんだけどね」 なーるほど。 扉が開かなかった原因はなんとも下らないものだったな。 周りの空気も一気に緩んだみたいだ。 「ちょっとみんな、まだ僕の推理は終わってないよ。突っ張り棒の件があるじゃない」 神島君の指摘で周囲の雰囲気が戻る。 「あー、そうだったぁー」 「じゃあ、あの突っ張り棒も先生が折っちゃったの?」 「いやいや、僕もそんなことしたら気付くよ」 「まぁ、あれはね、誰かのイタズラだろうよ」 神島君のなげやりな一言に一瞬時が止まる。 「ちょ、ちょっと。それ本当??」 あまりにも納得の行かない答えに私は聞き返す。 「あぁ、そうだよ。おおかた、開かずの扉の噂に便乗して誰かが置いたんじゃないかな」 「ってことはもうこれで終わり?」 「うん。 今回は正直僕の出番なんていらなかったんじゃないかな。おっちょこちょいの先生のミス、ということで。じゃあ、みんなまたね〜」 そう言うと神島君は颯爽と周りをかき分けて去っていく。慌てて追いかける私と京華ちゃんと宮浦君。 後ろでは脳筋先生がみんなに謝ってるのがわかる。 私たちが教室に向かう階段を上りかけた時だった。 「あ、あの..」 後ろからの声に振り返る。 声の主はあのメガネの子だ。 「どうしたんだい?」 神島君が保育園の先生みたいに優しく声をかける。 「あ、ありがとうございました!」 これだけ言うと男の子は階段を走って降りていった。 ん?解決してくれてってことかな。 「あー、君たちになら本当のことを言ってもいいかなぁー」 「...」 言葉を失う私。 「やっぱりそういうことか。隆司にしては何か変な推理ショーだと思ったんだよね」 「てか、あんな『説明』普段の隆司ならわざわざしないもんね」 対照的に二人は何かに気付いてたみたいだ。 「君たち二人はやっぱり気付いてたかぁ」 え、私だけ置いてかれてる..。まぁ、私なんて今日初めて会ったばかりだし、仕方ないけど..。気になる! 「ちょっと、頼むから私にもどういうことか教えて!」 プライドを捨てて神島君に頼みこむ。 「ふっ、君に僕が名探偵だと信じてもらうためにはいい機会だな。いいよ。それに京人と京華だって実際の結論はわからないだろ?」 「まぁね」 あ、宮浦君の下の名前が京人なのすっかり忘れてた。 って今はそういう状況じゃない。 「ひとまず教室に戻ろっか。 そこで、僕の本当の推理ショーを見せてあげよう」
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