わたしの日常

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 「ただいま、カナエ」  トーヤは待っていたわたしを見てにっこり笑ってくれました。  今日はいつも以上に汚れています。  でもそんなの関係ありません。  わたしはトーヤに抱きつこうとしました。  早くトーヤに抱きしめてもらって、頭を撫でてもらいたかったんです。  「ストップ! カナエ、待って待って!」  でもトーヤはわたしを止めました。  トーヤはわたしより背が高くて力も強いのでおさえられたら何もできません。  「ほら、俺すごい汚れてるからさ。このままだったらカナエも汚れちゃうよ」  「そんなの、後で一緒にお風呂に入ればいいじゃない! 服だってわたしが洗うよ。」  それでもトーヤはうーん、としぶります。  「じゃあもうギューってしない!一緒にお風呂にも入らないし、一緒に寝ない!」  わたしがそういうとトーヤはすごく慌てました。  「分かった! 分かったよカナエ。君の言うとおりにする。ほら、おいで」  トーヤは仕方ないなぁみたいな顔して、わたしの前で手を広げてくれました。  「わかればよろしい」  わたしはそういって思いっきりトーヤの胸に飛び込みます。  トーヤはわたしを優しく抱きしめて、頭を撫でてくれました。  とってもあったかくて、おちつきます。  トーヤのにおいと温もりが大好きなんです。  おっきくてゴツゴツした手も大好きです。  ぜんぶ、ぜんぶ大好きです。  だからわたしはそれを素直に伝えました。  「トーヤ、大好き、大好き! おかえりなさい! ごはんできてるよ! お部屋キレイにしたよ! トーヤ!」  「うん、うん。ありがとうカナエ。俺も大好きだ。カナエが大好き。愛してるよ、カナエ」  わたしは嬉しくて、トーヤのむねに顔をすりつけます。  思わずえへへ〜と変な声がでました。  幸せで幸せで、体のおくがとってもポカポカします。  今日のトーヤは一段と強く、血のにおいがしました。  でもちっとも気になりません。  それがわたしのために付けてきたにおいだと、わたしはちゃんと理解しているからです。  その後、わたしはトーヤと一緒にお風呂に入りました。  トーヤの背中をながしてあげます。  トーヤはわたしの頭を洗ってくれました。  わたしはトーヤに後ろから抱っこされる格好で、二人でお湯に浸かります。  「なぁ、カナエ」  「どしたの、トーヤ」  「俺さ、たまにああやってすごい汚れて帰ってくるだろ?」  「うん」  「そしたらカナエをすぐに抱きしめられないと思うんだ」  「うん、やだ」  「俺もやだ。だからさ、今度から仕事用の服を用意することにした」  「ほうほう」  「前から用意しようと思ってたんだけどなかなかね。半端なやつならすぐダメになるし、専用のじゃないとさ。でもやっと用意できた」  「ふむふむ。それってもうあるの?」  「実はある」  「みたい! みる!」  「じゃあこの後のデートでお披露目しようかな」  「やったー!」  トーヤとの時間はどれも大好きだけど、その中でも特別に大好きな時間があります。  それは、二人でお出かけすることです。  デートです。  トーヤが帰ってきてお風呂に入ってごはんを食べたら、二人で出かけます。  天気が悪くなければ、毎日いきます。  お弁当をもって、お散歩して、星をみます。  わたしは、それがとっても幸せなんです。  用意したごはんをトーヤはおいしいといって食べてくれます。  ぜんぶキレイに食べてくれるので、とっても嬉しいです。  トーヤにあーんしてあげました。  トーヤもわたしにあーんしてくれました。  デートに行くときわたしは目一杯オシャレします。  お化粧は苦手でとっても時間がかかります。  だからトーヤがキレイだと言ってくれる長い髪をもっとキレイにするようにしてます。  きちんととかして、黒い髪がもっとキレイな黒になるように、オイルをぬってツヤツヤにします。  お洋服もとってもカワイイのを着ます。  今日は特にお気に入りの服を着ていこうと思います。  トーヤが初めてわたしにプレゼントしてくれたお洋服です。  真っ白でドレスみたいにキレイで、でもリボンがあってとってもカワイイお洋服。  夢でみたあのウエディングドレスにちょっとだけ似ている気がしました。  「今日は星が見えないね」  トーヤは少し残念そうに言いました。  外に出て空をみると、雲があってお星さまを隠していました。  「いいよ、お星さまがみえなくても。だってトーヤがいるもの」  「そうだね。カナエがいるならそれでいい」  そういってトーヤはわたしの頭を撫でてくれました。  「ねぇトーヤ! さっき言ってたおシゴト用のお洋服! みせて!」  「せっかちさんめ。最後に着てバーンと出て来て驚かそうかなって思ってたんだけど」  「み〜せ〜て〜」  「はいはい」  トーヤは持ってきた大きなバッグをあけて、たくさんの道具を取り出します。  とてもお洋服にはみえなかったけど、トーヤが魔法みたいにあっという間に体に着けると、ちゃんとお洋服になりました。  お洋服っていうより、騎士さんが着るヨロイみたいでした。  とっても動きづらそうに見えるけどトーヤはへっちゃらみたいです。  最後に大きなマントを羽織って頭まで隠します。  「おお〜……」  「どうかな?」  「カッコイイ! でもトーヤってわかんない!」  「顔は隠れるように作ってあるからね」  「カッコイイ! 騎士さんみたい!」  「じゃあカナエはお姫様だね」  「ホント? じゃあ抱っこ」  「はい、お姫様」  トーヤはわたしを抱き上げてくれました。  お姫様抱っこです。  絵本でよんだから知ってます。  「うふふ、カナエお姫様……トーヤは騎士さん……」  「嬉しい?」  「嬉しいよ。絵本でみたまんまだもん」  「なんでもご命令を。お姫様」  「じゃあね、あの丘のてっぺんまで連れてって!」  「お望みのままに」  そういってトーヤはわたしを抱いたまま駆け出します。  重そうな格好をしてるのに、トーヤはいつもと変わりません。  あっという間に丘の中心まで来て、そこでトーヤは大きくジャンプしました。  まるで鳥になったみたいで、地面がどんどん離れていきます。  でも怖くありません。トーヤがいるのですから。  風が気持ちいいと感じるぐらいでした。  そのまま丘のてっぺんに到着します。  あっという間にでした。  「トーヤ早い!」  「もうちょっとゆっくりで良かった?」  「ううん、これでいい」  ふと空をみると、雲の間からお月様が見えるではありませんか。  丘の上だからか、手を伸ばせば届きそうです。  「トーヤ、お月様見えたよ!」  「本当だ、キレイだね」  「うん、キレイ……」  丘の下に目をむけると、たくさんの光が見えます。  あそこは町でたくさんの人がいるのだと、前にトーヤが教えてくれました。  たくさんの、人。  わたしは心がきゅっと小さくふるえるように感じて、少し怖くなりました。  「カナエ?」  「……ねぇトーヤ。お顔ちゃんとみせて」  トーヤはマントを取ります。  ちゃんとそこにはトーヤがいました。  わたしの心が少し落ち着きます。  「どうかした?」  「ううん、なんでもないよ」  トーヤはわたしの頬に触れて、ゆっくりとキスをしてくれました。  「大丈夫だよ」  「……トーヤには嘘つけないや」  「俺は君の騎士さんだからね」  わたしはトーヤに抱きつきます。  さっきの不安はもうありません。  トーヤが優しく抱きしめくれます。  心がとっても暖かくなりました。  家に帰って、二人で抱きしめあって寝て、起きたらトーヤはおシゴトに、わたしも自分のおシゴトをする。  そして、トーヤの帰りを待つ。  それがわたしの暮らし。  わたしの世界。  それ以上のことはいりません。  これがわたしの幸せなのです。  トーヤはわたしに、カナエがいてくれるだけでいいと言ってくれました。  わたしも、トーヤがいるだけでいいです。  これがわたしの、カナエの全て。  わたしは真実の愛を知ってます。  彼から、大好きな人から与えられた真実の愛を。         
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