死神

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死神

 昔っからヒーローが嫌いだった。  薄っぺらい正義感、強者の理論、とにかくどれをとっても嫌いだった。  弟は大好きだったけど、私はテレビのCMを見るだけでも、玩具屋のグッズも何もかも不快で。  弟の大切にしていた変身ベルトを壊したり、小学生の頃は同級生のごっこ遊びを邪魔して、ヒーロー役の子に怪我をさせたりした。  そんなことをしてれば当然私は問題児。  大人が口を揃えて「どうしてあんなことしたの」と聞けば決まって私はこう返した。  だって、気に食わなかったから。  現在時刻、深夜の1時36分。  私が居る場所は家から近くの河川敷。  周りは真っ暗で、街灯の明かりも届かない。  携帯のライトだけが私の足元を照らしていた。  髪はボサボサ、上下スウェットにクロックスサンダル。  17歳の女の子がこんな格好で、こんな時間に、こんな場所に立ってるなんてどっからどう見てもおかしい。  警察に見つかれば速補導ものだ。  本当はきちんした格好をしてくる予定だったが、急にどうでもよくなった。  だってもうすぐ死ぬのだから。  『お父さん、お母さん。あなた達のロクでもない不良娘はもうすぐ死にます。これ読んでる時には多分死んでます。弟は私の顔など見たくも無いだろうから、暴力女は死んでゲームもパソコンもアンタのものだ、と伝えておいてください。それではさようなら』  送信。  カスみたいな遺書をメールにして母親の携帯に送る。  多分、警察が来るまで気付かないと思うけど。  ついでに、一番仲の良かった飲み仲間にも遺書メールを送る。  『これから死神に殺されまーす。さいなら〜』  すぐに返信が来た。  『実況よろ。あと死神の写メも』  本気にしてないなアイツ。  まあいいけど。  死神は、最初はただの都市伝説だった。  自殺したい人を苦痛なく殺してくれる。  憎い相手を無惨に殺してくれる。  殺人や犯罪の証拠を隠してくれる。  どれもこれも物騒な噂ばかりだった。  もちろん最初は誰も信じていなかった。  ただ、死神に会ったと言っていた学生が行方不明になって、連続変死事件が死神の仕業じゃないかって噂が広がってから、信じる人が増えたと思う。  今じゃ、若い子とオカルト好きなら知らない人はいなんじゃないかってぐらい有名だ。  クソみたいな時代だ。  死にたくて、誰かを殺したいほど恨んでるような人間がたくさんいる。  そんな人達にとって、死神はヒーローだった。  ヒーロー大嫌いだった私が、まさかヒーローに助けを求めるなんてね。  死神の喚び方は色々あるらしいが、私は知り合いに教えてもらったサイトに書き込みをした。  すぐに返信が来て、アドレスを交換して、日時と待ちあわせ場所を決めて、あとは待つだけ。  あんまり金持ってないって言ったら、この河川敷を指定された。  およそ一日で私の命日が決まったのである。  正直そこまで信じていない。  騙されたかもしれない。  でも覚悟は決まってる。  売りをしてた時に客から貰った違法な薬。  これを酒で流し込んで川にでも落ちてしまえばたぶん死ねる。  その客がそんな風に死んだし。  ちなみに約束の時間は1時半。  2時まで待って来なかったら一人でやろう。   私の命のなんて軽いことか。  私が死んで悲しむ人はいないが喜ぶ人はいる。  私も死んだ方が楽だ。  お互いにとってプラスしかない。  とっても合理的で良いことだ。  後ろから車のエンジン音が聞こえた。  振り返ると、一台のワゴン車が見えた。  間もなく一人の男性が降りてくる。  男は私に気が付くと手を降ってきた。  私も振り返す。  「どうも。死神です」  男はご丁寧にそう挨拶してきた。  年は30代後半ぐらいだろうか?  新入社員のサラリーマンみたいに妙にピッチリしたスーツを着た、ヒョロくて頼りなさそうなオッサンだった。  噂の死神がこんなだったとは。  いや、偽物かもしれないが。  まぁどっちでもいい。  「とりあえず、荷物を預かりますね」  途中で気が変わって抵抗されたら困るかららしい。  荷物といっても携帯と小銭しか入ってないサイフ、ビールが入ったビニール袋しかないため素直に全部渡した。  「それじゃあ車にどうぞ。中でやりますから」  私はこれまた素直に車に乗った。  座席に腰掛けた瞬間、後ろからいきなりタオルで顔を覆われる。  どうやら後部座席に一人隠れていたらしい。  全く、そんなことしなくても抵抗なんてしないのに。  ただ殺される線は消えたかな。  レイプされて、その後に殺すとか?  何れにしてもヤリ捨ては勘弁して欲しいなぁ。  私はずいぶん冷静にそんなことを考えた。  
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