泰幸君

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泰幸君

いよいよ楽しみにしていたこの日がやってきた。私は昨晩からニヤけ顔が止まらずにあやうくその顔で仕事を熟しそうに迄なってしまった。そして帰ってからの私はお風呂で今日の為に買っておいた1枚2000円のパックをしながらの半身浴。礼二に次の日に臭いが残る食べ物は出さない様にしてもらい口臭にも気を配りお気に入りのワンピースに自分でアイロンをかけ靴も磨いた。やるだけやった。泰幸君に会うために頑張った。私は気合いバッチリだった。 「おい。」 機嫌の悪い声で礼二が。 「何?」 「連絡が遅すぎるぞ。」 「あ…あぁ。ごめん。」 「ったく。忘れてたのかよ。」 「忘れて…た。」   泰幸君からの詳細連絡をギリギリになって礼二に伝えたのだ。 「で?車か電車どっちだ?」 「駅に待ち合わせだから電車でいっかな。」 「何時に出る?」 「16時過ぎ。」 「分かった。」 「あのさ礼二。集合場所に着いたらとりあえず私からは少し離れてくれる?久しぶりだし皆もその…色々とオープンに話したいだろうし。駄目かな…。」 私は物腰柔らかにそうお願いしてみる。 「了解はしたが、でも護れる範囲には居るからな。」 「うん。それで大丈夫。ありがとう。」 本当は礼二を家に置いて一人で参加したかったっていうのが本音だけどとりあえず一緒についてくる礼二を遠ざけられたので良しとしよう。これで思い切って泰幸君にアプローチ出来るな。あと数時間で泰幸君に会える。浮き足立つ私。    礼二に時間を伝え私は部屋に戻り支度を始めた。ハンガーに掛けておいたお気に入りのワンピースに袖を通すと気分が益々上がった。メイクのりも良くて髪の毛も毛先を緩く巻いたら完成。支度を終え時計を見るともう少しで16時になろうとしていた。下に下りリビングで煙草を吸っていた礼二に声を掛ける。 「支度出来たからそろそろ行くけど。」 煙草をクシャッと灰皿の中で潰してマウススプレーを口に吹き掛けこちらにやって来る。 「…。」 じっと私を無言で見ている礼二。 「何か付いてる?顔。」 「またチークが濃い。」 「そっ、そお?」 玄関にある姿見で顔を確認しようとした時両手で顔を戻され親指で頬のチークを取っていく礼二。私の頬に触れる礼二の顔はやっぱり無表情でだけど僅かに開いた口元にまた胸が騒がしくなった。 「ん?瞼もキラッキラしてんな。気合い入ってるなお前。」 礼二は更に顔を私に近づける。 「っつ。」 手に付いた煙草の残り香が俺は礼二だと知らしめてくる様に感じた。でも何故かそんな支配的な礼二の行動にその時の私はなんだか流されてしまい…。 「ラメも取って…礼二。」   口が勝手にそんな言葉を発していた。    「あぁ。」 礼二は親指で瞼も数回こすり取ってくれようとしたがラメはなかなか取れない。 「水付けた方が良いかな。」 「いや。そんな時間ねぇ。ハフッ。」 「!?」 温かいヌルッとした物を瞼に感じ私の目には礼二の顎が見えた。 「次左。」 そう言うと同じ様にもう片方の目もしてきた。 「こんな感じだろ。さ、行くぞ。」 「へっ?あっ、う、うん。」 礼二の舌がそっと瞼をなぞり湿らせ唇で挟んでラメをつまみ取っていった。 礼二と私は家を出て駅へ向かう。横に居る礼二の顔を私は見られないでいた。あんな事彼氏にだってやられた事無いのに。 礼二の振る舞いに収まらない激しい鼓動が私を取り乱していた。 駅に着き電車に乗り込み約束の場所である三つ石駅に着いた。改札をくぐり周りをキョロキョロと見渡していると…。   「高嶺!」 私の名前を呼ぶ男性の声が聞こえた。フッと声の方へと振り返るとそこには久しぶりに見る泰幸君が私に笑いかけていた。
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