旧友

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チロちゃんが私の足を何回もスリスリしてくれるのが嬉しくてスカートに毛が付くのも気にせずにされるがままでいると後ろから礼二が私を覗き込んできた。 「ほぉ~。」 「何?」 私は礼二を見上げる。 「お前にも唯一そんな特技があったのか。」 「そうよ。私動物大好きだもん。猫でも犬でも何でも好きよ。どっかの誰かさんは近寄りがたいオーラ出ちゃってるからなかなか難しいとは思うけどね。」 「あはは。見た目だけで言ったら俺も同感。」 私と早瀬さんは二人してニタニタしながら礼二を見る。 「何だよ二人して。ちょっと見てろ。」 そう言うと礼二は私と早瀬さんの間に割って入って来てチロちゃんの視線の高さ迄手を下げると人差し指をチロちゃんに向け先っぽをチョロチョロと動かし始めた。 「何やってるの?そうやればチロちゃん寄ってく…、、」 ニャ~と一声鳴いたかと思うとそれを合図に一歩二歩と足を動かして礼二に近付きその指に向かって頬ずりした。そして更にチロちゃんは礼二の足にもすり寄りなかなか側を離れようとはしなかった。 「前言撤回。まさか礼二がねぇ。」    「チロ凄くご機嫌だ。ゴロゴロ言ってる。」 「誰かさんは近寄りがたいオーラ出ちゃってるだ~?ふんっ。にしてもこいつ可愛いな。」 「毎日本当癒しになってるよ。あ、飲み物出してなかったな。高嶺さんは水か…リンゴジュースもあるけどどうする?」 「じゃあリンゴジュース下さい。」 「分かった。礼二はどうする?てかボディガードって何時間勤務な訳?もう終業時刻過ぎたのか?」 「俺の場合は特殊だから何とも言えないが…ま、今日は旧友との久しぶりの再会って事で少しだけ呑むかな。」 「マジか。沢山吞ませたい気分になるな。そんな言い方されると。ビールで良いか?」 「あぁ。」 早瀬さんはニコニコしながら冷蔵庫を開けると缶ビールを二つとリンゴジュース、それから棚から乾き物をヒョイと摘まみ出し胸に抱えてテーブルに置いた。するとまたキッチンへ向かったかと思うとグラスを手に戻り私の前に差し出した。どうぞと私に呟き早瀬さん自らグラスに注いでくれた。職場の後輩にあたる私なんかの為にこんな細やかな気遣いをしてくれる早瀬さんがとても素敵な大人の男性に映った。 「わざわざありがとうございます。」 「いや。缶だと飲み辛いでしょ?」 ふっと小さく微笑んで早瀬さんも缶ビールを開ける。 「よく風呂上がりに腰に手当てながらガバガバ直で飲んでるのにな。」 早瀬さんと缶ビールを一緒に開けながら礼二がまた余計な一言を言ってくる。 「早瀬さんの前で私の私生活暴露しないでよっ。」 「俺達は友達なんだ。別に何話しても良いじゃねぇか、な?優弥も聞きたいだろ?後輩がどんな私生活送ってるのか?」 「聞きたい訳無いでしょっ!これっぽっちも興味無いわよ早瀬さんは。」 「なぁ優弥聞いてくれよ。前のこいつの部屋散らかりまくってて大学生の男子みたいな部屋だったんだぜ。俺の方が断然片付いててゴミ一つ落ちて無い超綺麗な部屋でさ…」 話に拍車が掛かった礼二の口は止まらず。 「だってしょうが無いじゃない。毎日仕事から疲れて帰って来てしかも時間も無いし休みの日はゆっくりしたいし外出もしたいし。」 「そうだよなぁ。仕事の日は時間もねぇし休みの日は出掛けたりして好きに過ごしたいよなぁ…って部屋を片付けたくないヤツが使う口実だな。バレバレ。」 「本当なんだってばっ。」 「はいはい、もうその辺で二人共。」 放っておけばきっと永遠に終わらない私と礼二のこの何時ものやり取りに早瀬さんは止めに入ってきた。 「それにしてもさっきから思ってたけど二人本当仲良いよな。相性ピッタリって言うか…。」 「仲良い風に見えます?これが?ただ一方的に私が礼二にからかわれたり時には怒られたりしてるだけだと思うんですけどね。」 「それが良いんだよ。礼二はさ昔っからそういうとこあるんだ。照れ隠しで意地悪しちゃうとこがさぁ。俺は知ってる。」 「はぁっ?優弥もう酔っぱらうなんて弱すぎるだろ。俺の話より俺はお前の話を聞きに来たんだぞ。」 「俺の話?分かった。十五秒で終わる。えっと高校卒業後、専門通って幾つかホテルの厨房就職して今に至る…はい、以上。我ながら何の出来事も無く平凡でつまらない人生だな。あっ、因みに礼二も変だと思ってたのかもしれないけど早瀬は俺の母親の名字。離婚して無くて母親が一人っ子だからそんな関係で早瀬を名乗る事になっただけ。まぁ良くある話だろ?」 「そ、そうだったのか。」 すると自分の話をサクッと終わらせた早瀬さんは缶ビールをグビグビと流し込みまた冷蔵庫から缶ビールを数本抱えて戻ると二本目に手を付けながら私達に向かって口を開く。 「俺も二人以上に山ほど聞きたい事がある。まず歓迎会で高嶺さんにボディーガードが居てそれだけでもびっくりしたのにそのボディーガードがなんと礼二だったと分かってお酒も入ってたしちょっと軽く頭がついていかなかった。」 「まぁ。そうだよな。」 「そうですよね。」 そしてまた缶ビールを勢い良く流し込むとまだまだ余裕な顔を見せながら早瀬さんはあれやこれやと話し始める。
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