旧友

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「そもそもお前ボディーガードなんてなりたかったのか?俺お前の口から一度も聞いた事無かったぞ。子供の頃はサッカー選手とか憧れてたと思ったけどな。良く二人で玉蹴りしてたし。」 「言って無かったかもな。特に。てか誰にも。俺の将来はもうとっくに決まってたからそれが当たり前でだから相談なんかする事も無くあえて口にしなかったのかもな今思えば。」 「水臭いぞ礼二。」 「礼二の家系は礼二のお爺ちゃんと家のお爺ちゃんが昔色々あってから菊田家は高嶺家の御息女をお護りする事になっているんです。今時こんな嘘みたいな話あるんですよね実は。」 「何だかそんな事実を聞いたら余計に頭ついてかない。どっかの作り話みたいで。」 「うふふ…分かります。」 「でも礼二がこの仕事に就いた事情が良く分かった。非現実的な感じはまだ拭えないが良いとして…そうだ、高嶺さんは二階に引っ越して来たのは知ってるけど礼二は何処に引っ越したんだ?この近くか?」 「この上。」 「この上?高嶺さんと同じ二階なのか?」 「あぁ。」 「けど確か202は内装業者さんが入ってるし203~205迄はまだ人が住んでたと思ったけど誰か引っ越したのか?」 早瀬さんは意外にも二階の状況に詳しく私は予想もしていなかったあの秘密をとうとう話さなくてはならないと腹を括った。 「いずれ…だけどな。」 早瀬さんは訝しげな表情をしながら顔を傾ける。 「いずれ…。え、じゃあ今は住んで無いのか?」 「住んでる。」 「どっちなんだよ。意味がわからねぇよ。」 「こいつの部屋。」 ばれてしまった。 「はぁ?つまり高嶺さんと同棲してるって事かよ。」 「あのっ、、同棲というか同居にしておいて下さい。なんか同棲ってちょっと聞こえが…。」 「そうなのか…部屋が一つしかないそんな空間に高嶺さんと礼二が。」 目を私と礼二に行ったり来たりさせて早瀬さんは続ける。 「そりゃ毎日一緒に生活してたらこんな砕けた仲にもなるか。なる程ね。」 「あの…ですね。本来ならば私が今の201号室で礼二が202号室の予定だったんですけど伝達ミスで急遽私と暮らす事になっただけなんです。内装工事が終わる迄の間だけなのでそのつもりで早瀬さんも頭入れといて下さい。」 私は頭の中で必死に組み立てて早瀬さんに経緯を説明した。なんだけどそう言い切った途端とてつもない喪失感が私を襲った。礼二が毎夜私の隣に居てくれ無くなる日々がこんなに寂しい気持ちを生むなんて。今、早瀬さんの目の前で隠しきれたかな…まるで恋人に捨てられてしまった様なそんな私の顔を。 「早く工事終わらねぇかな。こいつの寝言うるさくてよ。夜中いきなりキャハハとか笑い出すし勘弁してくれって話。」 「しょっ、しょうが無いじゃない。礼二だってたまにイビキかいてるもんね。」 「は~い、はい。お互い様だな。今日少し一緒に居ただけで二人の全てが理解出来た夜だったな。ま、とにかく久しぶりに礼二とも再会果たせて二人共にご近所さんとなった訳だからこれからも楽しくやろう。」 「そうだな。」 「そうですね。よろしくお願いします。」 そんな感じで飲み物を頂きほぼ私と礼二の話で持ち切りになったこの三人の会もそろそろお開きの時間を迎えようとしていた。短時間ではあったけど早瀬さんとの仲も更に近付いた気がしていた。 皆でテーブルの上を片付けていると礼二のスマホに着信が入りササッと玄関の外に出て行ってしまった。部屋に残された私と早瀬さんは手を止めずにビニール袋に空き缶や乾き物の袋を入れていく。   「ありがとう。もう大丈夫だよ。」 「最後布巾でテーブルの上拭きたいんでありますか?」 「それ位は俺やるから良いよ。それより…。」 早瀬さんが外に居る礼二の方を気にしながら私に呟く様に小さくこう言ってきた。 「高嶺さんしか見えてないよな。礼二はもう。」 「え?私が何て?」 「ボディガードとして護る対象だからっていうのもあるけど…ま、面白そうじゃないの。」 「あの、早瀬さん聞こえ無かったんですけど…。」 「ごめん、良いの良いの。こっちの話。」 するとガチャリと玄関で音がして電話を終えた礼二が帰って来た。 「片付け任せてすまん。」 「うん。もう終わったよ。では早瀬さんご馳走様でした。また明日仕事で。」 「また明日。礼二もな。」 「おぉ。」 「イビキかくなよ。高嶺さん寝られないから。」 「優弥。お前はどっちの味方だよ。」 「色んな意味で高嶺さんにかな。」 「あはは。二対一だ~。早瀬さん最高。」 色んな意味って何なんだよ優弥のヤツ。
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