旧友

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翌日。 休憩をしに休憩室でコーヒーを飲みスマホをチェックしていると早瀬さんもやって来てコーヒーを手に私の側に腰を下ろした。昨日の歓迎会からお宅訪問に至る迄あの夜で既にもう二年分の仲になった様なそんな存在に感じていた。今、早瀬さんが休憩室に入って来る時にも目が合い無言でうんと挨拶を交わす程で堅苦しい空気など微塵も感じる事は無かった。早瀬さんの心の中に自然と無理なく踏み入れさせてもらえた事が嬉しく早瀬さんもそう感じてくれていると良いなと思った。でもこれは早瀬さんと礼二が友達だったお陰でもあるんだよね。 「高嶺さんも休憩だったんだ。」 「偶然ですね。あの昨日はとっても楽しかったです。歓迎会もその後も。」 「それなら良かった。仕事があるから少人数での会になってしまったけど楽しめたなら俺も安心したよ。でも昨日は頭が流石に疲れて二人が帰った後風呂入って直ぐ寝た。爆睡。」 「ですよね。ボディーガードが居るとかそれが礼二だったとか私達が一緒に生活してるとか…私が早瀬さんでもグッタリです。」 「昨日は時間足らなくて聞きたい事半分位しか聞けなかったな。礼二の仕事内容とか何時から高嶺さんに就いてるかとかさ。」 二人が会っていなかった何年かぶりの間を埋めるべく私は休憩が終わる迄の時間を早瀬さんの為に使うことにした。礼二がボディーガードになった話は昨日言ったばかりだからそれ意外の聞きたいと言っている仕事内容についてをまず説明してあげた。礼二の場合は高嶺家専属のボディガードである為同業者とは契約からして異なりその仕事内容も一風変わったスタイルで基本的には私の護衛が最優先事項だけど時には家事全般を熟したり私の家政婦代わりとして身の回りの世話もするという事。勤務時間も私に合わせて様々で礼二の方がそれに合わせて自分でシフトを組んだり臨機応変に働いているという話もした。そして私が学生の頃から護衛されている事も含め簡単に説明を終えると早瀬さんはさっきよりも納得のいく顔をして私にありがとうと言った。 「…とまぁ、そんな感じなんです。少しすっきり出来ましたか?」 「大分。へぇ~、俺まだそんな世界が存在するなんて何処か信じられて無い自分が居るけどだけど高嶺家のボディガードって奥が深いんだね。ちょっと興味湧いた。」    「それってボディガードにですか?高嶺家にですか?」 「どっちも。あはは。」   「でも早瀬さんは一生料理人を貫いて下さい。何時だって夢に見ていた料理人を。一つの夢に突き進む姿勢は誰にも真似できるものじゃありませんから。」 「ひょっとしてそれ礼二から聞いた?」 「はい。卒業文集に何時も書いてたって。」 「俺と高嶺さん毎日一緒に働いてたら俺の過去丸ごと話されそうでなんか冷や汗かいてきた。わぁ~あの当時の事はバラされたくないなぁ…はぁ。」 「私。ワクワクしてきました。」   「ちょっと止めてよ高嶺さん~。」 「あの。逆に私も礼二の学生の頃の話聞きたいんですけど良いですか?」 「勿論!あ、良い事思いついた。俺の恥ずかしい過去をバラされる前に礼二に先手打っとくかな。礼二は中学の時さ…。」 早瀬さんは懐かしそうに目を細め私が知らない若かりし礼二との思い出を語り始めた。 容姿端麗の礼二が確立されたのは中学に入ってからで、成長期の中学頃から周りの女子が騒ぎ始め連日の様に告白を受けていたという。サッカー部では先輩達をもしのぐそのテクニックが光り尚更女子は色めき立った。 「…とまぁここ迄は順調な滑り出しだったんだけどさ。」 早瀬さんはそう言うとニタァ~ッと笑い話を再会する。 あるバレンタインデーの日。廊下やら部室の前やらに目を潤ませた女子が代わる代わる可愛い包装紙に包まったチョコを握りしめ真っ赤な顔で礼二に手渡していた。 「ありがとう。部活終わったら食べるね。」 チョコをくれた女子達に一言そう言い残して受け取り礼二本人も甘い物は好きだったから本当に部活が終わってから食べる予定だった。練習が終わりサッカー部の部員と数人で帰る事になってお腹が空いてたらしくチョコでパンパンな鞄の中から一つひょいっと取り出してバクバク食べ出した。部活終わりの育ち盛りの部員の前で美味しそうにチョコをかじる礼二。その光景を目の前に部員達は拷問の様に感じた。そして思わず「礼二鞄の中のチョコ一つで良いからくれよ。」「あ!俺も食べたい。」「俺も!」 流石にもらったチョコ全ては食べられないと思ったのか礼二は適当に鞄からチョコを手にし部員に渡した。で、後日どっかから話が漏れて大ひんしゅくを買った礼二はチョコを渡した殆どの女子達から距離を置かれ中学のモテ期は幕を閉じる事となったと。 「あはは…確かに気持ちを込めてチョコを渡した女子達への配慮が足らなかったですね礼二は。そりゃあ怒りますよね。」 「まぁ、俺達が寄ってたかって礼二にくれくれせがんだのも良くなかったんだけどさ。いくら腹が減ってたとはいえさ。」 「でも中学生ですし女子達の繊細な想いをそうやって学んで皆今パートナーを大切にしてくれていたら良いなって思いました。」 「礼二はさ…俺達男にも女性にも優しく出来るヤツなんだよ。」 「そうですか?私にはキツいですよ。」 「はは。分かり易いんだよな俺から見る礼二はさ…おっと、休憩終わりだな。」 壁に掛かる時計を見上げると休憩時間があっという間に過ぎていた。 「大変!私も戻らないと。」 「確か今日は予約のお客様沢山入ってたよね。斎藤マネージャー休みの日で俺が料理の事教えてって頼まれてるから一緒に後半も頑張ろう高嶺さん。」 「はい!」 そう二人で気合いを入れながら持ち場へ戻って行った。
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