二人の計画

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二人の計画

早瀬さんに対する複雑な想いを抱えながら私は従業員入り口に向かって歩いていた。私が入社した時まだ自分に彼氏が居たから早瀬さんの事は知っていたけど優しくて格好良い先輩って感じでしか思って無かった。その数年後彼氏と別れある時厨房とホールの数人で呑み会がありその中に早瀬さんも居て席がたまたま隣同士になった。お酒が入ると厨房で見る早瀬さんも優しく素敵だったけど更に気さくで話も弾みとても楽しい時間を過ごせた。その日から私は早瀬さんしか見えなくなった。優しくて格好良い早瀬さんだからホールのスタッフにも人気があった。だけどそんな人気がある事を当の本人は露知らず。良いんだか悪いんだか。困ったものだ。だから私が想いを寄せているなんて一ミリも分かっちゃいないんだ。 ガチャリとドアノブを開けると一台の黒い車の前にスーツ姿のスラリとした男性が煙草を吹かしながら立っているのが目に入った。余りのオーラにその場で少し驚いていると向こうも私を見ていた。 「お疲れ様です。岩永さんですよね?」 うわぁ。塩顔のイケメン俳優みたい。 「あ、はい。そうですが。」 何の用だろう。私に。 「先日チラッと拝見して。」 「え?何処かでお会いしましたか?」 「えぇ…まぁ色々と。」 なんか怪しい人? 「何か御用ですか?」 「はい。あの何時もお世話になっています。」 お世話に? 「高嶺雅のボディーガードをしております菊田礼二と申します。」 「ボディーガードっ!あ、高嶺さんがこの間言ってたドラマの様な話のあれ、、ですね?」 「あの雅お嬢様はまだ中に?」 「あっ、はい。今ちょっと厨房の方と話してます。」 「厨房の方と…ですか?もしかして早瀬さんでしょうか?」 「早瀬さんも知ってるんですか?」 「私の友人です。」 「えぇっ、それはそれで驚きですよ。偶然なんですか?それとも何か…。」 「偶然です。私も会って驚きました。」 「そうだったんですか。じゃあ友人って事はその…プライベートな話なんかも勿論している訳ですよね?仕事とかの話とか。」 ふと思いつきついそんな事を聞いてしまった。 ───急にどうしてそんな話になるんだ?当たり前だろ友人なんだしあれこれ話すさ。あ、待てよ。岩永さんは優弥に想いを寄せてるってそう言えばアイツ言ってたな。なる程。気になる訳だ。 「優弥とは確かに昔から為になる話から下らない話迄沢山してきましたね。」 「…早瀬さん。何か気になる女の子とか居るって言ってませんでしたか?」 ────意外とストレートに聞くんだな。でもその言い方は優弥に好きな子居るって事なのか?    「再会を果たしたばかりだから優弥の近況はまだ分からなくて。すみません。」 「で、ですよね、なんかすみません色々と聞いちゃって…あ、そう言えば高嶺さん今日は早瀬さんに料理の事沢山教えてもらってましたよ。今も二人は厨房でスープなんか飲みながら楽しそうに話してて私の入る隙間無しでした…。」 そう話す岩永さんの表情が曇っていくのが分かった。そして俺の中で疑問が湧く。 優弥のヤツまさかわざとアイツを居残りさせたのか? 「雅お嬢様は居残りさせられる程熱心な教育を受けているんですね。」 「いや。あれは早瀬さんが高嶺さんと話したいだけなんじゃないかと。」 「そうですか。」 やっぱりな…この前から怪しいと思ってた。 「高嶺さんは家柄も良いし将来きっとそれに見合った素敵な相手と結婚するんだと思ってます。だけど私は庶民でそれこそ自分の身分に見合った素敵な相手と結婚がしたいですしするんだと思います。」 「…。」 「私は早瀬さんを高嶺さんが来るずっと前から想っていました。将来的には早瀬さんと結婚なんかも夢にみています。なので…途中から入って来た高嶺さんに正直取られたりするのは嫌なんです。高嶺さんは嫌いでは無いけれど。」 「はい。」 「これは悪まで私の直感ですが早瀬さんは高嶺さんを好きになりかけていると思います。あの二人は…というか高嶺さんの方は早瀬さんが自分に気がある事なんて多分分かってないんだと思うんですよね。純粋に早瀬さんを最初から変わらず職場の先輩としか思ってないんですよ。優しくしてくれるのも良き先輩だからってそう思ってると私は考えますね。」 「雅お嬢様らしいというか何というか。そうなってくるとこちらとしても高嶺家の一人娘の雅様をいくら優弥は友人だからと言っても容易く見過ごす訳には行かなくなりそうですね。私も勿論優弥の事を毛嫌いはしてい無いですが。」 「ですよね。あの高嶺グループですもんね。一つ提案なんですが私達協定を結びませんか?お互い方向性は同じですよね。上手くいくと思うんですけど。」 「ほぉ。協定ですか。」 「そんな堅苦しい物じゃ無くってただお互いの恋を応援して達成させるって事ですよ。」 「はは。私も恋の仲間入りしてしまってますがその言い方だと。」 「菊田さんが高嶺さんを好きでもそうじゃ無くても私はどちらでも構わないし関係も無いので。例え好きなら菊田さんもやる気出てくるんじゃないですか?私はとりあえず早瀬さんに振り向いて欲しいので知恵を絞ってやるだけですけどね。」 まさか俺に協力的な存在に出会うとはな。 へぇ。面白くなりそうだ。 この提案のってみるか。 「分かりました。」 「ふふ。成立ね。」 ─────────────。
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