二人の計画

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岩永さんと思いもよらない協定を結ぶ事になった俺はその後彼女と連絡先を交換し別れた。だけど俺にとって少しでも不利になる存在を遠ざけてくれようと動いてくれるのはこちらとしても都合が良い。何もこそこそそんな事をしないでも優弥に取られる前にいっそのこと全てさらってしまっても…なんて考えてみたりする。けど雅と俺の間にはこれでもそれ相応の壁はある。乗り越え一線を越えるには覚悟も必要になる。それにしても雅に対し強きな俺の方が断然多いが油断をしていたあの時は流石にこちらも気持ちが乱されたな。 『良いよ。見せてあげる────。』 俺が一方的に雅をからかって仕掛けるのには躊躇がなかったが雅の方からこられると俺はどうしても理性に歯止めが効かなくなるんだ。特に嘘偽りの無い真っさらなあの笑顔を見せられると…。 ガチャリと扉が開き雅と優弥が一緒に外に出てきた。そして微かだが二人からふわっとアルコールの香りがした。 「あ、礼二遅くなってごめん。今日ね早瀬さんが料理の事沢山教えてくれてて最後少し残ってスープの味見もさせてもらってたの。」 スープだけじゃねぇだろ。 「よぉ、礼二。」 「お楽しみだった訳だ。酒呑みながら。」 「バレたか。でもそんな呑んで無いよね、高嶺さんも。」 「はい。少しだけですよね。」 「あっそ。」 「高嶺さん。今日は本当お疲れ様。そうだ、今度車でちょっと走った所にフレンチレストランがあって一緒に行かない?俺たまに勉強の為にふらっと行ったりしてるんだ。最近行って無いし高嶺さんも為になるかなって。リーズナブルだけど味は保証済みだよ。」 何さり気なく誘ってんだよ。どう見ても口実だろ。 「行きたいです!勉強したいし。」 「じゃあ休みが同じ日があったら行こう。」 「分かりました。」 「…という訳だから。じゃあな礼二。高嶺さんもまた明日ね。」 「お疲れ様でした。」 「…。」 そう言うと優弥は一人テクテクと歩き出し帰って行った。今さっき岩永さんと協定を結んだばかりだと言うのにもう向こうから正々堂々とこんな事仕掛けてきたな。そっちがその気ならこちらもそれなりにやらせてもらうぞ。 私は早瀬さんの姿が小さくなる迄見送っていると礼二が低い声で言う。 「早く車乗れ。」 どこか不機嫌な礼二。 「え、あぁ、分かった。」 何時もより出てくるのが少し遅くなったから怒ってるのかな…? 「礼二。連絡入れなくてごめんね。片付け終わった流れでそのまま話してたから更衣室戻れなかったの。」 「別に気にしてない。」 やっぱり表情の固い礼二。普段もだけど何か違う。 ピーピー。 「シートベルトしろっ。」 「ごっ、ごめん。」 完全に怒ってるよ。 「ねぇ。何かあったの?変だよ礼二。」 「はぁ?俺が変?誰に言ってんだよ。」 「だってそうじゃん。なんかおかしいよ。確かに遅くなるって連絡しなかったのは良くないけど…けど謝ったよね私。」 「俺なんかよりも圧倒的に変なお前に言われたくないね。」 「はいっ?変じゃ無いもん私。」 「自分で自覚が無い所がもう手遅れだな。」 「ひっど~い!」 「ひどいのはどっちだよ…。」 「っつ。」 礼二の振り向いた顔が今まで見た礼二の中で一番じゃないかなって言う位寂しい顔をしていた。 今にも泣いてしまいそうな…。 私はそんな礼二に言い返す文句も思い浮かばずに黙って礼二がエンジンを掛けるのを待った。 「何か食って来たんなら腹減って無いだろ?」 ボソリと礼二が口を開く。 「スープ呑んだだけだから。」 「気つかって無理して食わなくても良いぞ。」 「食べます。」 「…。」 もう。何なのよ…礼二のヤツ。 初っ端からこんなんじゃ駄目だ。 完全に優弥にマウント取られてるな俺。
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