フレンチデート??

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一瞬しんと静まり返った。 「ぷっ、、」 礼二は口に手をあてがいながら顔を反らして笑っている。私は自分でも信じられない事を口走ってしまったと下を向き黙り込んでしまった。礼二は礼二で肩を震わせながらまだ笑っているし。けどはっと気付いた時には取り返しがつかない状況になっていた訳で胸の奥にしまっておいた密かな想いを口にしてしまう程私は知らない間に限界を感じていたのかもしれない。近すぎる礼二のその存在に。 「…。」 好きだなんて言って礼二はどう思ったかな。そうやって笑ってるって事は馬鹿にしてるよね絶対。 「う、うけるぜ。俺を口実に使うとはな。」 「口実…あはは。そっ、そうそう。断る理由を探してたら咄嗟に礼二の顔が浮かんでさ、だからそれで、、あれ…。」 ポロッと涙が頬を伝って落ちていく。 「自分で言っといて笑うなよな…って涙まで出して。」 「本当だよね。あはは。私ってば面白い…。」 「あ~ぁ。優弥にそんな事言ったなんてお前もやるな。今頃どうしてるやら。」 「はは…。」 「じゃっ、煙草でも吸ってくるな。」 礼二はそう言って外へ出て行った。私はやるせない気持ちと何処かホッとした気持ちが混在する変な感情に襲われながらベッドにストンと腰を下ろした。私の本心が伝わらなかったみたいだったけど例え礼二がその気持ちを知って向こうが私を好きじゃ無かったら二人はやり辛くなるだけ。雇い主と雇われボディーガードにだって戻れなくなってしまうかもしれない。あんな風に笑って重く受け止めてくれなくて良かったんだきっと。 良かった…これで…。 すると胸の辺りが下から突き上げられる感覚に襲われそのままベッドに横たわる。右を下にして目を閉じる。ツウッと再び流れる涙。 あぁ…また。 胸の違和感は胃では無くさっき我慢した大量の涙のせいだったんだと気付く。 私は礼二がまだ帰って来ないこの部屋で声を抑えて泣けるだけ泣いた。まだ礼二が私を好きかもしれない可能性だって無いわけじゃ無いと思いながらもでも、さっきのあの笑ってはね除ける様な礼二を目の当たりにした私は流石に少々堪えた。礼二にとっては私の口実かもしれないけど私にとっては本心の言葉(告白)だったから。 スゥ~…ハァ~。  優弥のヤツ俺の居ない隙に告ったのか。にしてもこのタイミングにする意味あったか?いくら何でも早過ぎる。雅と出会ってまだまだ日は浅いはず。しかも自分に気持ちが向いて無いのだって優弥の事だ、見過ごすはずは無い。だとすると…俺か。それしか考えられないな。大分焦ってるんだなアイツ。まぁ事情はどうあれ雅と同居していると知れば気が気でないか。 一本吸って戻るつもりが足元には小さくグニャリと曲がった吸い殻が二本落ちている。そしてまた深く煙を吸い込み吐くと俺を好きだと言った雅のあの光景を思い浮かべる。あれは雅の本心だ。長年側に居た俺には分かる。まさか優弥の前で宣言するなんて思っても見なかった。さっきはあんな風に誤魔化すしか方法が無かった。雅と俺の為に。散々からかい煽ってきたが愛しい君が今すぐ俺のこの腕の中に収まってしまえる程俺達は簡単にはいかないんだ。 同居…。 泣くなんて向こうも限界だったのか? 雅。俺だってとっくに我慢のメーター振り切れてるんだよ。 泰幸も居ない優弥だってもう関係ない。やっとお前が俺だけを見てくれたって言うのに近すぎるこの状況が俺達を困惑させていく。 胸ポケットから一本煙草を取り出しカチッと火を付ける。夜空に輝く幾つもの星に向かってわざとフウッと煙を吐く。神頼みやその類の物は一切信じて来なかった。皆がそれをしていれば不幸な世の中なんて存在してはいないと思うから。だから俺は自分を信じて生きてきた。自分の考えや行動が圧倒的に正しかった。誰かにすがりたくなる時も空に向かって手を合わせるんじゃ無く拳を作り自分の胸に手を当てた。トンッ、トンッと今も何時も通り打ち付けてみるが何故だか今夜は自信が湧いてこない。 ふとまた夜空を見上げる。 さっき吹き消した星達はジリジリと光りを放ったままで。    そして俺は少し詫びる様な気持ちでゆっくりと目をつぶり星に初めて願いを託した。 ────────。 「へぇ。これが高嶺ホテルか。すげぇ。」 「純。言葉に気を付けなさい。」 「あ、あぁ。」 父の仕事の関係で知り合った高嶺さんに招待されて俺と父さんは高嶺ホテルに来ていた。 「波多野さん!」 エントランスをくぐると高嶺さんが出迎えてくれた。 「こんにちは高嶺さん。本日はお招き頂きありがとう御座います。息子の純です。」 「こんにちは。波多野純です。」 「あらぁ…本当礼二君かと思っちゃう。」 「礼二さんですか?」 「あ、そうなの。うちのボディガードに雰囲気が似てるな~って。」 「僕がですか。会ってみたいですね。」 「大丈夫。今度会えるから。」 「あぁ、そうでしたね。」 「うふふ。では波多野さんこちらへどうぞ。今日はお腹いっぱい食べて帰って下さいね。お薦めはフカヒレラーメンです。」 「存じ上げておりますよ。それを是非食べに参りました。」 「僕もです。」 「あら嬉しい!ゆっくりして行って下さいね。」 明るくて感じの良い高嶺さんは気取って無くてとても親しみやすい方だった。まだ会った事は無いが送られて来た写真の彼女も高嶺さんの様に可愛らしい方だった。もし縁談がまとまれば高嶺さんが俺の義理の母になる訳だが俺的には少しも不足は感じられ無かった。そして妻となる高嶺雅さんと俺に似たボディガード。今から二人に興味津々だ。早く会ってみたいものだな。 ──────────。
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