協定解除

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協定解除

「…成る程ね。実を言うと強がって平気なふりしてたけど心の何処かで行かせたくない気持ちはあったんですよね。だけど結果的に早瀬さんが高嶺さんに振られてくれて安心しました。さぁ、これからは心おきなくガンガンに攻めさせてもらおっと。」 俺は数日後岩永さんと電話していた。優弥があの日雅に振られた事を伝えると岩永さんはいつも以上にやる気を出して話す声にも張りを感じる程だった。 「と言う訳なので私と岩永さんの協定はこれにて解除となりますがよろしいでしょうか?」 「そうですね。」 「実際雅お嬢様は優弥を恋愛対象としては見ておらず告白の方も勿論断っております。それなので今後は優弥と岩永さん二人の仲を阻む要因は無くなったと考えての結論です。」 「はい。後は私の頑張り次第って事ですもんね。逃がさないわよ~、早瀬さん。」 「私も引き続き微力ながら応援はさせて頂きます。」 「嬉しいです。短い間でしたけど私の為に色々とナイスな作戦をありがとう御座いました。私は余りお役に立ててませんでしたけどね。ごめんなさい。」 「いえ。お気になさらずに。」 「あの…聞いても良いですか?」 「はい。」 「菊田さんはボディーガードをやられていて毎日一緒に側に居る訳ですけど仕事意外であんなに可愛い高嶺さんを意識しないんですか?」 「はは。無いですよ。」 「私ずっと思ってたんです。雅お嬢様の為と言いながら本当は菊田さんが高嶺さんを独占したいんじゃないかなって。」 「な、何を言い出すかと思えば。独占なんてそんな事…。」 「いくら高嶺家のボディーガードは特殊だからってここ迄するのかなって。疑問が拭えない部分があって。」 「特殊ですからね。やらない様な事まで時に任されるんです。(任されてはいないが。)」 「好きって…少しも無いんですか?菊田さんの心には。」 「…好き。ですよ。」 「えっ、それってつまり…。」 「雅お嬢様は私の大切なお嬢様ですから。愛しくてたまりません。」 「あ、あぁ…そう言う意味ですか。ははは。」 岩永さんのその鋭い質問は何とも予想外でまるで俺の気持ちを見透かされている様だった。 「では岩永さんにいつか幸せが訪れる事を願います。」 「ありがとう御座います。そうだ、菊田さん。」 「はい。」 「私今回お役に立てなかったんで良かったら女の子紹介しましょうか?彼女居なかったらの話ですけど。」 「居ませんが…でも大丈夫です。」 「あは。余計なお世話でしたね。分かりました。ではまた。失礼します。」 岩永さんは最後俺の女の心配迄して電話を切った。自分にとっての不安要素が無くなったせいで他人の俺を心配する余裕が生まれたようだ。そんな今の彼女の勢いに優弥は果たして耐えられるのか?後ずさりする優弥の姿が想像出来なくも無かった。 「いらっしゃいませ。」 「予約した高嶺です。皆さんお疲れ様。」 綺麗な人…え、でも今高嶺って言ったわよね。 「お疲れ様で御座います奥様。」 「奥様。お久しぶりでございます。」 皆丁寧に挨拶をしていると言う事は間違いない。高嶺さんのお母様だ。私初めてお目にかかるわ。 「今日は私の大切なお客様の波多野さんをおもてなしお願いしますね。」 「かしこまりました。」 「仕事中だし私は直ぐ戻らないといけないから二人だけでお食事です。」 「はい。それではあちらの中庭の見える窓際のお席へご案内致します。」 「それ一番良い席なんじゃないの?」 「奥様のお客様ですのでご用意させて頂きました。」 「マジで!ありがとう。」 「純っ。行儀悪い言葉止めなさい、いい加減。」 「はいはい。」 二人を別の従業員が案内し私の前を通り過ぎたその時若い方の男性と目が合った。誰かに似ている気がして失礼かとは思ったが顔をじっと見つめてしまった。菊田…さん? 「ん?俺に何か用?堺さん。」 胸元のネームプレートを人差し指で指差す。 「はっ、、失礼致しました。少し知り合いに似ていたもので。」 「知り合いってもしやボディーガードの人?」 「ご存じなんですか?」 「やっぱりそうだ。うん。まだ会った事は無いけどね。もしかしてどこかで護衛してたりする?雅お嬢様ってこのホテルで働いてるんだよね?」 「以前は働いておりましたがこの間地方に転勤になりましてそちらのフレンチレストランに勤務しております。ホテル恋花の。」 「そういう事ね。そっか~。今日会えるかな~なんて思ってたんだけど。可愛らしい方だよね?雅お嬢様って。」 「はい。そうですね。」 「だよね。あはは。色々教えてくれてありがとう。」 見た感じ良いとこのお坊ちゃんに見えるけど何だか壁が無くて気さくな方だったな。高嶺さんに会いたがってるのは何かあるのかしら? ──────。 ホテル恋花か…車飛ばして行ってみるか。
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