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三日後。
「皆さん。本当迷惑かけちゃって申し訳無かったです。」
「私もごめんなさい。なんかいきなり高熱にうなされて…。」
齋藤マネージャーと岩永さんが開店前のミーティングで深々と頭を下げて皆に謝っている。土日に人手が急に無くなる事はいかに大変か齋藤マネージャーも岩永さんも十分に分かっていたから。それに実際にホールは回っていなかったんだと思う。早瀬さんのヘルプがあってもその一時が過ぎれば立て直した所でまたバタバタと体勢は崩れていってしまった。だけど毎日働いてる私達は気を付けているつもりでも体調を崩してしまうのは致し方ない現実なんだと思った。私もこの間の貧血で体は万全とはいかなかった。
「そうだ。早瀬さんがホール手伝ってくれたって本当?」
岩永さんが私に聞いてきた。
「はい。私なんかよりも動きが的確で凄く助かりました。」
「そうだったんだ。早瀬さん流石。料理もホールも熟せるなんて。」
「私もそう思います。」
「だよね。良し!じゃあ散々迷惑掛けちゃったから今日からまた頑張るわ!」
「すっかり体調は戻ったんですか?」
「もう大丈夫よ!」
「病み上がりで無理しないで下さいね。」
「ありがとう。」
体調の回復した二人はホールの中の誰よりも何時も以上に機敏に動き仕事に徹していた。漸く要の二人が戻って来てくれてホッとした私のそんな日の帰りでの出来事だった。
────────。
雅の仕事を車の前で煙草を吹かしながら待っていると一台の高級車が止まった。こんな時間に来るなんて誰かの迎えか?そんな風に考えその車の気配を気にしながらも煙草を吸う。運転席には男性と思われるシルエットが映っており顔は良く見えない。するとガチャリと裏口の扉が開き先に出てきたのは優弥と岩永さんだった。一緒に帰る程に迄なったのか…いや違うな。あの優弥のたじろいでいる顔を見たらまだまだ岩永さんの一方的なアピールは続いていそうだ。
「よ、よう礼二。」
優弥がこちらに気が付いた。
「俺の存在は気にせず行ってくれ。景色の一部になるから。」
「おい。何だよそれ。」
「菊田さん。お疲れ様です今夜も。」
岩永さんも気が付き俺に目配せしてくる。
「岩永さん。体調はもう大丈夫そうですね。」
「はい。もうすっかりですよ。」
「それは良かった。お疲れ様です。ではお休みなさい。」
「菊田さんも。お休みなさい。」
「またな礼二。」
そうして優弥は岩永さんに隣をピタリとマークされながら俺の横を通り過ぎた。俺は二人を見送り視線を戻すと今度は少し遅れて雅が出て来た。吹かしていた煙草の火を携帯灰皿に押し付け胸ポケットにしまうと同時に雅がこちらに歩いてくるのが見えた。
その時───。
バタンとあの高級車から一人の男性が降りてきた。足早に歩き出したかと思うと向かって行くその先には雅しか居ない。俺は反射的に体が動き雅の身の安全だけを咄嗟に考える。
「雅っ!逃げろっ、、」
「え?」
過去の事件が頭を過った。
「みやっ…!?」
「お帰りっ。俺の奥さん!!」
言葉を失うとは正にこういう事なのだろうか。身に覚えの無いその男に雅はガッシリと抱き締められていた。
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