協定解除

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「あ…の。」 雅は抱き締められたまま身動きが取れずにいる所を駆け付けた俺が引き離しに掛かる。キリッとその男性を睨み付けると俺は目を疑った。 「おっと、、はは。いきなりすみませんでした。」 両手を上げて降参したポーズをとりながら半分からかい口調で話し出した。俺はその様子にカチンとして更に鋭く睨み付ける。でも。 「貴方が俺とよく似てるって噂のボディガードさんねぇ。」 この男性の言葉通り本当に俺と良く似ていてそちらに意識が反れて集中力に欠けてしまう。 「雅お嬢様。お知り合いですか?」 雅はじっと顔を見たかと思うと俺と男性の顔をチラチラと見比べる様にして言った。 「初めてお会いした方だと思う…多分。礼二はその…兄弟居たんだっけ?」 「これはこれは雅お嬢様。お姿が車から見えて嬉しさの余り気持ちが抑えきれずにこの様な無礼をお許し下さい。お写真の雅お嬢様に一目惚れしてしまいまして。」 「写真?」 雅がぼそりと言うと俺も何の事だかさっぱり分からず顔を合わせる。 「申し遅れました。私、波多野純と申します。奥様と私の父が仕事で知り合い雅お嬢様に是非とも一度お会いしたくやって参りました。」 「波多野さんって…堺さんが話してたあの方なのかな。あの、以前に高嶺ホテルのレストランに行かれましたか?」 「はい。フカヒレラーメンを頂きました。最高でしたね。」 「やっぱり。」 「何の話だ?」 雅から詳しく話を聞けば前に高嶺ホテルのレストランに来店した際に堺さんに雅は居るかと声を掛けられその話を電話で聞いていたみたいだった。 「成る程。で、写真と言うのは奥様が波多野さんに見せられたのですか?」 「見せられたと言うか送ってきたから見たって感じで。」 「送ってきた?お母さんがですか?」 すると眉をひそめ波多野さんは言った。 「あれぇ?何も聞いてないんですか?私と雅お嬢様は結婚するかもって話。」 「結婚っ!?私と波多野さんが…。」 「そうです。私と雅お嬢様は近い内に夫婦になるかもしれないんです。あ、もしかしてタイプじゃ無いですか?俺みたいな顔。それともこのノリ?あはは。」 「そんな事は。ただ母から何も聞いていないので少し動揺してます。」 「良かった~。タイプじゃ無い訳じゃ無いんですね。そうですか。まだ話してないんだ高嶺さん。」 さっきから鼻につくこのしゃべり方と俺を見る目付き。俺にそっくりなその顔で攻撃的な圧を出してくる波多野純という男。一筋縄ではいかなそうだ。 三人のやり取りに後ろを振り返った優弥と岩永さんにも目撃され不思議な顔でこちらを向いている。 「ねぇ、早瀬さん。今の聞いた?」 「聞いた。なんかとか何とか言ってなかった?」 「言ってた言ってた。」 「一体誰なんだ?礼二に似たあの男性は。」 「とりあえずあの。今日は一旦帰りますので母から事情を聞いてからでも?」 「そうですね。折角足を運んで頂いたのですが今日は雅お嬢様も仕事で疲れていますので私からもお願い致します。」 俺も負けじと圧をかける様に波多野を見て雅と波多野の間に一歩体を入れる。早く雅を波多野から遠ざけたい。 「ふぅ。雅お嬢様のボディーガードなんか怒ったら怖そうだから帰ります。」 「あぁ…すみませんでした。元々目付きも態度も悪くて。」 「いえ。ボディーガードですからそれ位が適任なんじゃないですかね?なんて。ではお休みなさい。今夜はお会い出来て嬉しかったです。また。」 「また。お休みなさい。」 波多野は雅に紳士的な笑みを見せ帰って行った。俺には雅に向ける嫌らしい笑みにしか思えなかった。 波多野が車を通り過ぎ姿が小さくなると優弥と岩永さんが俺達の方へとやって来た。波多野が車には戻らずこんな夜に何処に行くのかなどと思うよりもとにかく気分が悪くて仕方が無かった。
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