胸の内は…

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胸の内は…

今日は休日を利用してまた俺のお気に入りのフレンチの店に一人で来ていた。毎月では無いが季節毎に新作を出してくれるシェフの料理が俺の楽しみになっていた。 「早瀬さんいつもありがとうございます。今日はカウンターにしますか?」 「こんにちは。うん、そうしようかな。」 席に案内され座ると同時にメニューとお冷やを出してくれた。勿論今日は新作を頂くつもりではいる。チラリと前に目線を向ければカウンター越しに厨房の様子が覗けてシェフの技を見て密かに勉強も出来たりするのだ。もう頼む料理は決めてあったので直ぐに店員さんを呼んで注文をした。すると後ろでカランとベルが鳴りお客様が入って来たのが分かった。 「いらっしゃいませ。一名様ですか?」 「はい。」 「カウンターでもよろしいですか?」 「良いですよ。」 声からしてそのお客様は男性に間違い無かった。店員さんに案内され俺から二席離れた席に腰を下ろす。メニューとお冷やを出されるとメニューを見ずに店員さんに話し掛ける男性。 「へぇ~。このお店アットホーム感もあって素敵なお店ですねぇ。」 「初めてのご来店ですか?」 「そうそう。色々ネットで飲食店探したんだけどあんまりピンとくるお店が無くってさぁ。だけどここを見た時良さそうだなと直感で…やっぱ俺の直感当たるな~。ははは。」 「そうでしたか。」 「で、当店のお薦めは?俺それ食べるよ。」 「かしこまりました。本日は牛ヒレ肉と季節の彩り野菜でございます。」 「じゃあそれで。」 「ありがとうございます。」 注文が済むと男性はジャケットを脱ぎ始める。そのジャケットを椅子の背もたれに掛けようとこちらを向いたその時。 「あっ…。」 つい声に出してしまった俺に男性は気が付いて目と目がバチッと合う。やはり。礼二と似たあの時の男性だった。 「えぇっと…。」    「あっ、すみません。以前ちょっとお見かけして。」 それにしてもつくづく礼二に似ている。 「俺を?何処でだろう。」 「その…ホテルの敷地内で。」 「え?て言う事はホテルの関係者の方?」 「はい。フレンチレストランの厨房で働いています。」 「あぁ!高嶺さんが居る職場だ。な~んだ、そうだったんだ。じゃあ高嶺雅さん知ってます?」 「はい。高嶺さんはホール担当です。」 「そうそう。ホール担当。」 「高嶺さんとはお知り合いですか?」 「うん。まだ知り合ったばかりだけどね。」 「知り合ったばかり…?」 「そう。だけどそう遠くない内にもっと身近な存在になるよきっと。」 「はぁ。」 「あ、そうだ。雅さんて確か会社が借り上げてるアパートに住んでるって家の親から聞いたんだけどあのホテルから見える建物だよね?」 「はい。そうです。僕は一階に住んでいます。」 「マジで!ならこれ渡しといてくれます?」 その男性はレジにあった紙とボールペンを拝借し自分の名前とスマホの番号とアドレスを書いた紙を渡してきた。 「あっ、あともう一つお願いが。」 「何ですか?」 「雅さんに就いているあのボディーガードが居ない仕事中とかに渡して下さい。あの人目がヤバいぐらい鋭いんで。」 「分かりました。」 「じゃっ、そう言う事でよろしくお願いしま~す。」 渡された紙にはその人間性からは想像がつかない整った字で波多野純と書かれていた。そして彼が口にした所々引っ掛かるワードがさっきからもやもやしていた俺は思い切って波多野さんに聞いてみる事にした。 「波多野さん。あの…先程高嶺さんが身近な存在になるとおっしゃってましたけど高嶺さんと何かあるのですか?」 するとニヤリと笑みを浮かべて言った。 「俺と雅さん。お見合いして結婚するんです…きっとね。」 お見合い!? そうか、だからあの時駐車場で「俺の奥さん」とか言ってたんだな。漸く繋がった。礼二の表情がいつにも増して雲っていた訳も理解が出来た。きっと今頃礼二のヤツ腹わた煮えくり返ったままなんだろうな。俺が礼二の立場だとしてもこんな軽いヤツに高嶺さんを取られたくは無いからな。 「高嶺さんがお見合いをしたいと?」 「そうです。お見合いしましょうって。だから俺も嬉しくて。高嶺さん可愛い人だし。」 高嶺さんが言ったのか!? 何を考えてるんだよまったく。 君は礼二が好きなんじゃないのか…?
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