胸の内は…

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「失礼ですがお名前は?」 「早瀬優弥です。」 「早瀬さんですね。分かりました。あの…早瀬さんは雅さんのボディーガードとは面識はありますか?雅さんと同じアパートに住んでるって言ってたんで毎日送り迎えしているあの人と知り合いだったりするのかな~って。」 「礼二とは、あのボディーガードとは友人なんです。昔からの。」   「うっそ!そうなんですか!?早く言って下さいよぉ。俺聞きたい事山ほどあるんです。」 波多野さんは俺の席に詰め寄って来て隣に腰を下ろすと礼二の事を聞いてきた。高嶺さんと礼二の為にプライベートに関わる話はなるべく答えない様にして波多野さんの質問を受ける。礼二が何時から護衛に就いているとかまだ独身なのかとか何歳なのかとか事細かい所まで。 「…これ位で良いですか?そろそろ料理も出来上がりそうですね。」   「あぁ、はい。ありがとう御座います。聞けて良かったです。あの人俺にとって脅威なんで少しでも調べておかないとと思って。すみません友人をこんな言い方して。けど雅さんと俺の結婚をスムーズに遂げる為なんで。」 「そうですか。」 カタッ。   「お待たせしました。」 切りの良い所で店員さんが料理を運んできてくれた。俺は波多野さんに解放された気分になり黙々と食べ始めると波多野さんの料理も出来上がりテーブルに置かれた。その後はひたすら目の前の料理に集中してあっという間に完食し会計を済ませお店を出た。帰り波多野さんが振り向き軽く会釈をしてきたのを返しただけでそれ以上の会話は無かった。タクシーを呼び車に乗り込み何時もなら家へと帰るこの時間をあの料理はあぁだったとか頭の中で復習にあてるのだが今日は波多野さんのお陰で料理の味なんか少しも思い出せないでいたのだった。   翌日の朝ホールで準備に取り掛かっている高嶺さんを捕まえて波多野さんから頼まれた紙を渡した。 「…と言う訳で昨日そんなこんなで高嶺さんに渡してってこれ託されてさ。」 「そうでしたか。分かりました。」 「波多野さんって強烈キャラだよね。あっ、ごめん、お見合いするのに。」 「いえ。私もそう思いますから。」 「だったら良いんだけど。だけどさ何でお見合いなんかしようと思ったの?まだこっちで働き出したばかりだしそれに高嶺さんの胸の中には居るよね?礼二が。」 「…はい。」 「じゃあ何でっ。」 言っている事がちぐはぐな高嶺さんについ感情を抑えきれず声を荒げてしまう。 「すみ…ません…。」 高嶺さんはそんな俺に少しだけ怯えながらか細い声で言った。 「あっ…いや、ごめん。俺が悪かったよね。きっと高嶺さんにも事情があるのにさ。ただ一つ言いたいのは俺は礼二だから高嶺さんを諦めたんだよ。」 「えっ…。」 「もし。高嶺さんが礼二では無く波多野さんのものになる様な事があったのなら俺は黙って無いから。」 「早瀬さん…。」 「さ、仕事しよう!」 早瀬さんはニッコリ笑って厨房へと戻って行った。 早瀬さんにあんな風に言われてしまうのもしょうが無いと自覚している。自分に好きな人が居て別の人とお見合いするなんてなんて軽い女なんだって思われても仕方が無いしそんな私に失望したかもしれない。それに礼二の友人でもある早瀬さんは私に怒りすら覚えたと思う。早瀬さんの様に今の私がやろうとしている事を周りが知ったら皆口を揃えて冷たい言葉を並べるだろう。だけど誰も私の気持ちは分からない。波多野さんを除いては。彼は私の気持ちに一番寄り添ってくれようとしてくれる。あんな感じの人だけど。 仕事が終わり家の駐車場に着くと誰かが階段に座り込んでいるのが目に入った。車を降りるとまず礼二が私の前を歩きその人に近づく。 「あぁ!お帰りなさい。雅さん。」 礼二を無視する様に顔を傾け私を覗き込んできた。 「親に聞いて来てしまいました。」 「こ、今晩は。」 「雅お嬢様に何か御用ですか?」 礼二が少しムスッとしているのが声から感じ取れた。 あの日の夜を思い出す私。
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