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「いつにも増してすげぇ不機嫌だな。」
「うるせぇよ。」
その夜礼二は仕事帰りの俺の家に来ていた。コンビニでビールとつまみを買い一缶をあっという間に飲み干し二本目に手を付ける礼二。普段は仕事上お酒を殆ど口にしない礼二がこんなにゴクゴクと水の様に呑む姿は見ていて気持ちが良い。
「高嶺さんはどうしたんだよ。」
俺もビールを口にしながら言う。
「この連休は実家に帰って見合いの打ち合わせするらしいぜ。」
「例のあの話か。あの波多野さんって人に偶然会って聞いた。」
「会ったのか…波多野に。」
「一人で食事してたら後から入って来たんだ。で、近くの席になって話掛けて…。」
「ったく。うろちょろしやがってアイツ。」
テーブルにカンッと乾いた音を響かせてクシャッと潰した缶を置くと次に三本目のビールの栓を開ける礼二。
「おいおいペース考えろって礼二。」
手にしたビールを横からスッと取り上げる。
「何すんだよ優弥っ、返せよ。」
「お前って本当分かり易い性格してるよな。(何で高嶺さんは気が付かないんだよ。)」
「お前に俺の事なんて分かられてたまるかよ。」
取り上げたビールを戻される。
「はいはい。そうですか。吞んでも良いがゆっくり吞め。」
「ふん。あ~、全然酔わねぇ。それよりそっちはどうなんだよ。」
「そっちって、、」
「岩永さんともう付き合ってるんじゃないのかよ。一緒に帰ったりしてるの何回も見てるぞ。」
「それは仕事終わりで一緒になるだけだ。同じ職場なんだから重なるだろ普通。」
「へぇ~。」
感情の込もっていない一本調子な声で。
「…にしてもあんな感じの人だけど波多野さん高嶺さんと本気で結婚したいんだな。それにわざわざ高嶺さんお見合いの打ち合わせしに帰るなんてさ。礼二はついて行かなくて良かったのか?」
「奥さま達が車で迎えに来たからそれに乗って行った。後で迎えに行く予定。」
「そうか…なぁ礼二。今ふと思ったんだけど仮にあの二人が結婚したら二人が一緒に行動する時は礼二が二人を護る事になるのか?」
「そうなるな多分。」
「高嶺さんはともかく波多野さんも護るつもりあんのかよ。無いだろ?」
「金を貰っている以上は仕事だ。やるさ。」
「そういう事を聞いてるんじゃ無いって。」
「そういう風にしか言えねぇんだよ。」
頭をくしゃくしゃっとかいて苛立ちを見せる礼二。
「高嶺さんに気持ちを伝えなければお前そっくりな波多野さんに取られるぞ。」
だけど今一煮え切らないそんな礼二にこちらも苛立ちを覚えつい発破を掛けてしまった。
「…っ。」
礼二の俺を見る目つきに力が入る。
「俺はな。礼二と高嶺さんが上手くいけば良いなと思ってんだ。礼二の想いが俺なんかよりもずっとずっと深い事は側で見てきたこの俺が良く分かってるさ。その想いはあの波多野さんよりも比べ物にならない位にな。」
「優弥…お前そんな風に思ってたのか。」
「だから…だから諦めんなよっ。立場がどうとかそんなの関係ねぇよ。好きになったもんはしょうがねぇんだから。」
優弥のその真剣な顔を俺は少しも見逃さなかった。優弥に言われて俺はやっと目が覚めた気がした。
「その想いを貫け、礼二。」
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