予期せぬ…

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パシャッ。 蛇口を捻り泣いて腫れぼったくなった瞼に水を掛ける。ズキズキと頭も痛い。あぁ。このまま皆の前に戻ったら心配されるだろうな。でも余り長くも席を外せない。もう少ししたら出よう。 もう帰って寝てしまいたい…。 礼二の顔も見たくない…。 それから数分後に私はやっと皆の元へと戻ると真っ先に側に来て波多野さんが私を気遣う。 「雅さんなかなか戻って来ないから心配してました。何だか顔色…悪い?ですね。」 きっと波多野さんには泣いた事がバレている。見渡せば皆私を心配そうに見ている。 「はい…ワインが効いたみたいです。」 「大丈夫ですか?今お水もらいますね。」 「すみません。」 礼二が私から居なくなる虚しさで本当に具合が悪くなっていくみたいだった。だけどこのお見合いは最後迄やり遂げなければならない。 私はフイッと顔を上げ皆に笑って見せる。 「少し動悸も収まったのでお水飲めば大丈夫だと思います。さっ、続けましょう。」 「本当に大丈夫?雅。」 「うん。」 とにかく今は無事に終わる事だけ考えよう。 ─────────。 私は何とか平常心を保ちながら居るとデザートが運ばれて来たのでそれをお腹に収める。すると最後両家の挨拶が交わされた。 「本日は楽しい時間をありがとう御座いました。」 「いえいえこちらこそ大変有意義な時間を頂いて光栄でした。今後とも仕事もそうですが雅さんともご縁があると嬉しいと思っています。」 「それはこちらも同じですよ。」 「そうですね。」 「雅さん。僕も今日は楽しかったです。また近々二人で食事でも。」 「はい。」 私達は礼二の運転する車に乗り込むと波多野さん達に見送られてお店を後にした。 車内ではお母さんもお父さんも波多野さんの話で盛り上がっていたけど私は一人助手席で礼二の横顔すら見る事もせず流れる景色をぼぉっと眺めているだけだった。 「今日も一日ご苦労様礼二君。後お願いね。」 「かしこまりました。」 「雅も帰ったら早く寝て明日から仕事頑張りなさいね。」 「うん。分かった。」 「それでは失礼致します。」 お母さんとお父さんを実家に送り届けると私の荷物を積んでそのまま私達も向こうのアパートに帰る事になっていた。二人に別れを告げ礼二は車を走らせる。だけど私は今日の疲れと落胆した気持ちに負けて会話なんて出来そうに無かった。しんと静まり返るこの車内の空気を肌で感じつつも眠ってしまおうと窓側に顔を傾け目を閉じた。 ─────────。 「おい。着いたぞ。」 礼二に起こされ目を開けるとすっかり外は真っ暗になっていた。トランクを開けて礼二が私の荷物を持ち階段を上がる。そして扉の前に着くと私の方を向き鞄と鍵を渡してきた。 「え?開けないの?」 意味が分からず礼二に尋ねる。 「昨日業者から連絡が入って作業が終わったんだ俺の部屋。だから今夜から別々な。」 「そんな…急だね…。」 「そうか?随分待ってたけどなこっちは。清々するだろお前だって。俺が出て行く事。ま、そんな訳だからほら、早く鍵と鞄受け取れよ。」 私は礼二の顔をじっと見つめたままその場に立ち尽くす。
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