私は、俺は…。

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次の休みを利用して私と礼二は実家に来ていた。ダイニングテーブルを前に私と礼二は横、そして目の前にはお母さんとお父さんが。私達から二人に大事な話があるからと時間を作ってもらい集まってもらった。斉木さんがキッチンからコーヒーを手にし皆の前に置いていくと緊張していた私は香ばしい香りに少しホッとする。 「それで?どうしたって言うのよ。お父さんも気になってたんだから。」 うんとお母さんの言葉に頷くお父さんも何だか怪訝な顔をしていた。 「あのね…二人には話しておきたい事があって。この間波多野さんとお見合いして波多野さん本人は良い方で何も決して落ち度も無くきっとこのまま一緒になれば私も幸せになれるんだろうなって思えた。お母さんもお父さんも私の為を思って今回の縁談話をもってきてくれて感謝してるの。」 「それは良かったわ。」 「何だけど。まだ二人に私の本当の気持ちを伝えて無かった。」 「本当の気持ちって?」 「二人の私に対する思いを大切にしたかった。」 「…。」 「私を思ってくれる二人に応えたくて、そして今後の高嶺グループの発展に繋がるきっかけになれる様にお見合いの話を受けたの。」 「雅…。」 「波多野さんは素敵な男性。だけど。」   私はテーブルの下で礼二の手をギュッと掴む。 「私は礼二が好きなの。愛し合ってる。ごめんなさい。」 お母さんは私から目を反らし斜め下を向いた。そしてコーヒーを一口飲むと礼二の方に顔を上げこう言った。 「礼二君は雅を女性として見られる?だって学生の頃からそれこそ未成年の時から一緒に居る訳でしょ?そこのとこどんな風に思ってるの?」 「奥様のおっしゃる通り雅お嬢様を学生でまだ未成年の頃から見て参りました。ですが私の中で日々大人へと成長する雅お嬢様は何時の頃からか大切なお嬢様から愛しい女性へと変わっていったのです。勿論雅お嬢様には私がその様に想っているなど口にはせずに参りました。雅お嬢様の幸せの邪魔になるからです。」 私はそう話す礼二を横で見守りながら見ていた。 「そう。けれど菊田家は代々高嶺家に仕えるボディーガード。そうよね?」 「はい。承知しております。」 ピリッとした空気が流れ始める。礼二の表情も硬くなっていく。 「そのボディーガードの立場で手を出すのは本来ならば決して許されない事位分かってはいたのよね?」 「はい。」 「手を出せば代々仕えていたこの護衛という仕事自体無いものになってしまうかもしれないという事も礼二君は分かっていた?」 「…はい。」 「それなのにどうして?何故?雅じゃなきゃ駄目だった理由は?」 礼二に詰め寄るお母さんは少し動揺している様にも見えた。 「自分でも分かりません。でもただ無性に愛しくてそれが止まらないだけです。私の全てを雅お嬢様に束縛されていくみたいに。我ながら完敗です。」 さっきまでの堅苦しい表情から一気に優しい顔を取り戻した礼二に安堵すると同時に私への想いが痛いくらいに伝わってくる。 「合格っ!!」 ────────え? 私も礼二も顔を合わせる。 「お母さん?何それ。」 「え?だから無事試験は合格よ。」 「奥様、その試験と言うのはつまり…あれでしょうか?」 「そ、お見合い。」   あっけらかんとそう言うお母さんはニヤけ顔で私を見る。 「ちょっ、、そうなの?」 「雅って鈍感と言うか何と言うか。お母さんが気付いて無いとでも思ったの?」 「だ、だって私少しだって礼二がどうのこうのなんて話してないじゃない。」 「聞かなくたって何となく分かるわよ雅見てたらね。」  「クスクス。」 横を振り向くと礼二が小さく笑っている。 「笑わないでよ、もうっ。」 「今回のお見合いは私達が雅を大切に思っての事だったけれどもう一つの意味は雅と礼二君の愛を確かめたかったって言うのが本音かしらね。はぁ。でも安心したわ。礼二君が家の財産目当てとか思ったりしたけど愛があって良かった…ごめんね、試す様な事して礼二君。許して。」 「大丈夫です。それもこの高嶺家を護っていく為の手段だったと思いますから。」 「理解があって嬉しいわ。ありがとう。」 「ま、そう言う訳だから二人で引き続き仲良くやってちょうだい。波多野さんの方にはお母さんからお断りしておくから。」 「分かった。でも良いの?礼二はその…このままボディーガードしてもらっても。」 「当たり前でしょ?他の人なんか探してませ~ん。雅が思ってるよりかなり忙しいのよお母さんもお父さんも。」 「相変わらず忙しいんだね。けど、ありがとう。」 「礼二君。雅をこれからもどうぞよろしくお願いしますね。」 「かしこまりました。」 一時はどうなるかとヒヤヒヤしたけど全てはお母さんの計画だったなんてまんまと騙された私と礼二。だけど礼二の私を想う気持ちが本物であったからこそ私達は二人に認めてもらう事が出来た。この人にいつまでも何処までもついていこう。この人なら私は人生の全てを託しても後悔はしない。
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