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ある昼下がり
朝から雲一つ無い快晴の下オープンテラスで食事をしている。辺りを見渡せば駅近くという事もあって都会ほどでは無いにしても近くのショッピングモールに向かう人々で街は賑わっていた。私はトマトのクリームパスタを食べ終わり食後のコーヒーを飲みながら波多野さんの話を聞いている。
「…それで兄は昔僕より背が小さかったから取っ組み合いの喧嘩になったとしても僕が兄を泣かせたりしてて。」
「そうなんですか。」
「はい。高校に上がる頃にはやっと同じ位の身長になって喧嘩もしなくなったんですけどね。」
「でも兄弟が居るって羨ましいです。私は一人だから。」
「時に少し鬱陶しい時もあったりしますよ。まだ実家で兄と暮らしていた頃はたまに一人だったら良かったのになんて思ったりしてましたよ。雅さんみたいに。」
「へぇ。そんな風に思うんですね。私とは逆だな。」
「雅さん。」
「はい。」
「一人は寂しいかもしれません。でも誰かと一緒になればその寂しさは埋まります。」
「…確かに。」
「雅さんにとって僕とのお見合いは何の意味を持たない両親の為の形だけだったというのは承知していました。けど、、」
「それに関しては波多野さんに私のわがままを押し付けてしまった様で本当にすみませんでした。ありがとう御座います。」
「いえ。そんな事は別に気にしてないんです。僕が言いたいのはこれからもこうして雅さんとまた食事に、、」
「波多野さん。お見合いも波多野さんのご協力のお陰で無事に終える事が出来て感謝しています。波多野さんもとても素敵な方なので私があまり波多野さんの側でうろちょろしてはご迷惑かと。」
「迷惑なんて思っていません。僕は雅さんと会える事が嬉しいんですから。」
「それはありがたいです。でもそれでは私の気持ちが…え?」
突然私の隣に黒い影が落ちてきた。ふと見上げていくと礼二が立っていた。
「な、何か用ですか?ボディーガードさん。」
波多野さんは眉をひそめて礼二を見ている。
「いや、聞こえてくる会話がなかなかすっきりとしないんでつい来てしまいました。」
「はぁ?言っている意味が良く分からないですね。今雅さんと二人で話してるんで席外してくれます?」
波多野さんの機嫌が悪くなっていくのを隣で察知した私は礼二に向かって移動する様に小さく礼二と名前を呼びつつ目でも合図しながら促す。
「…そう言われたら外すしかないですね。」
「ありがとう礼二…っ、、!?」
私がそう言った途端左腕をグイッと掴まれたかと思うと後頭部を強引に引き寄せられ唇を塞がれる。
「ふっ…。」
道行く人が直ぐそこに居るこんな開けた場所で、そして隣には波多野さんが見ているのに礼二は構わずに私にこんな事をしてきて何考えているんだか。礼二の胸を押して引き離そうとしても全然ビクともしない。
「んっ…っ。」
そして更に口内の奥に迄入ってきて余計に私を困らせる。だけど次第に柔らかい優しいその舌に頭がトロンとしてきてしまい抵抗する力も湧いてこなくてもう周りなんか気にもならなくなって…。
「しっ、失礼します。」
波多野さんはガタッと席を立つ。
「やっと分かってもらえた様で。」
礼二のその一言で波多野さんはお店を出て行ってしまった。
「ったく、奥様からお断りの話がいったってのにしつこいヤツだな波多野。」
「ちょっ、こんなやり方して波多野さん気分悪くしたよ絶対。あぁ、どうしよう。今日は私の口からきちんと話をしようと思ってたのにいきなり礼二があんな事するから予定が狂っちゃったじゃない。」
「は?あっちが未練がましいんだよ。見合いが終わったってのによ。もう会わない男の事なんか考えんな。」
「そうだけど…。」
「だけど…じゃねぇ。」
するとまた強引に引き寄せられて口を塞がれた。私は礼二から体を離そうと試みたが直ぐに止めた。礼二が嫉妬してくれてるのが嬉しくて。可愛くて。そして両腕を礼二の首に回して私からも体を引き寄せる。
わぁっ!!
歓声とザワザワとした話し声が耳に入ってきた。
パチパチパチパチ…。
中には拍手を送る人まで。
端から見たらまるで恋人を奪いに来たシチュエーションみたいだ。
そしてお互いを確かめ合いそっと唇を離す。
「ふふふっ。」
笑いながら礼二の顔を見れば今になって恥ずかしそうに顔を赤らめている。そんな礼二に私は堪らず頬に口付けをした。
────────。
とある日…。
礼二と部屋に二人。
「ねぇ。映画行こうよ。」
「映画?何系?」
「恋愛映画。」
「行かない。」
「何で~。」
「眠たくなるから。」
「そうですか。あっ、そう言えば前から気になってたんだけど…。」
「何だよ。」
「礼二って私を好きになってから付き合う迄の間誰かとお付き合いとかはしなかった…の?」
「何言ってんだお前。」
「え、だって私は他の人に目がいったりしてた時があったしだから礼二もその、他の人と…とか思ったの。」
「好きでも無い女を抱くほど困ってねぇよ俺は。」
「それってつまりずっと私だけを…?」
「行くぞ。」
「え?行かないんでしょ?」
「気が変わった。早く支度しろよ。」
「うん!」
愛する喜び。愛される喜び。
礼二が私に教えてくれた。
何時だって付いてくるボディーガードは年頃の私には正直煩わしい存在だったけど貴方が居てくれたから私はこんなに幸せで居られる。
だから。
護られる幸せを余す所なく私全部で受け止めて。
貴方はこれからもずっと永遠に私だけのボディーガードにしてあげるわ。
~完~
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