デートなのに

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「あははははっ!」 お化け屋敷から出てきた泰幸君がお腹を抱えて笑っている。私はそんな泰幸君を真っ青な力の無い目で見ている。あれから順番がきてスタッフの人から1人1本ペンライトを渡されいざ暗闇の中へと入ったはいいが久しぶりの本格的なお化け屋敷に私は出だしから怖さに耐えられず泰幸君の後ろでキャ~だのギャ~だの叫びっぱなしだった。あると言ったらペンライトの小さな明るさしか無いっていう位の暗闇で、お化け?ゾンビ?が驚かしてくる箇所だけ微妙に明るくしてあるだけだった。終始叫びっぱなしだった私の喉はこの数分の間でヒリヒリと炎症を起こす程になっていた。そして泰幸君のあの笑いはそんな私を見ての笑いでは無い。私の激しすぎる叫び声でお化け役の人が驚きのけ反ったのを泰幸君は目撃したそう。そりゃあ笑っちゃうよね。驚かす方が驚かされてさ。しかも私の声ってそんな大きかったんだ。そんなのちっとも可愛げ無いじゃない。 「大丈夫か?高嶺。ベンチ座って何か飲みながら休憩しよう。自販機行ってくるから待ってて。こんな時は冷たいお茶かな?」 「ありがとう。うん。お茶が良い。」 「分かった。直ぐ買ってくる。」 そう言うと泰幸君はお茶を買いに自販機へ買いに行ってくれた。 えっと…あった。 俺は高嶺に頼まれたお茶のボタンを押して下からペットボトルを取り出した。ついでに自分の分の飲み物も買おうと自販機を眺めていると後ろに人影を感じ振り返る。 「あぁ…急いで無いのでゆっくりどうぞ。」 上下黒のスーツに身を包み俺よりも少し背の高いその男性の顔は長い前髪が印象的な見覚えのある人だった。 「すみません。直ぐどきます。」 そう言うと記憶を探りながら無意識のうちに高嶺と同じお茶のボタンを押していた。 さっきのスーツ…高嶺…あっ! さっきからつかえていた物がようやく分かった。この人は高嶺のボディーガードだ。俺はその人が自販機でコーヒーのボタンを押すタイミングで声を掛けた。 「いきなりすみません。」 「はい。」 「もしかして高嶺のボディーガードさんですか?」 「はい。」 「今日も護衛に来てたんですね。さっき気が付きました。」 「護衛は護衛ですが今日は私の出番は無さそうです。泰幸君が居てくれますからね。」 「高嶺はきっと貴方みたいな人に護られた方が安全なんだとは思いますけど一応俺も男なんで体だけは張れます。」 「泰幸君は勇敢なんですね。」 「そんな事は。あの1つ聞きたいんですけど高嶺は貴方に何処へ行く時もこうやって常に護られているんですか?」 「そうです。」 「例えば高嶺が恋人と2人で出掛ける時も?」 「はい。危険は誰と居ても何処へ行っても伴いますからね。」 「高嶺うんざりしないんですか?俺だったらとっくに反発してる。プライベートが全く無い。」 「仕事ですから。全うするだけです。」 「そうかもしれませんね。貴方に与えられた仕事は高嶺を危険から護る事ですもんね。けど幾らお嬢様でも俺の前では心は無邪気な普通の女の子です。20歳もとっくに越えて成人した今が1番楽しい時期だと俺は感じてます。同い年の高嶺もきっと。」 「そうですね。」 「あっ、じゃあ高嶺具合悪いんで先戻ります。」 軽く会釈して俺は高嶺の元へと戻った。 俺の言葉に冷静沈着なままのあいつが腹立たしく思えた。俺よりも背が高く顔も良いからってなめられてんのかな俺。 「高嶺お茶買って来た。とりあえず飲んで。」 「ありがとう泰幸君。頂きます。」 「高嶺、あの人来てたんだな。」 「え?」 泰幸君の指差す方へ視線を向けていく。 「ボディーガードのあの人。少し話した。」 「えぇっ…!?」 視線のその先に居る礼二は片手にコーヒーをだらんと持ちもう片方の手には煙草を指で挟みこちらを見ながらヒラヒラとその手を振っていた。
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