デートなのに

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「はい。」 「開けて。話したいの。」 ネクタイを外しシャツのボタンを胸の辺りまで開けている礼二が扉を開けた。直ぐ後ろのベッドには着ていたスーツのジャケットが無造作に脱ぎ捨てられたままで。 「あっ、ごめん。着替えてた?」 「用件は?」 「あぁ…さっきは言い過ぎたわ。介抱してくれてあり…がとう。あっ、だけど礼二も今日はちょっとその、、駄目だったんだからね。」 「んあぁ?覚えてねぇな。」 「覚えて無いって…そう。だったら都合が良いわ。」 「お前に都合が良いのはお前の手の平で転がされてるかの様で何かしゃくにさわるな。」 「そんな事思っても無いわよ。」 「それか俺の弱味を握りたいのか。」 礼二は上から目線を落とし威圧的にそう言った。 「だから違うってば。単純にその方がこの後の生活も過ごしやすくなるなって思っただけ。まぁ、今もそんな過ごしやすいとは思っていないけど。ていうか本当に何時からそんな屁理屈言う様になったんだっけね礼二は。私が高校から大学に差し掛かる位迄はもっと普通のお兄さんだった気がするんだけど。」 「持って生まれた性格だ。残念でした~。」 意地悪な顔で私を覗き込む。 「あっそ。元がそうで私の勘違いだっていう事ね。はいはい。私は残念でしたね。こんなボディーガードに護られて。あ~可哀想。」 「じゃあいらないって捨てれば?」 「え?」 「さっき俺に言ったみたいに。」 「っ!?」 私は絶句した表情で礼二を見上げる。けれど礼二はどうしてか穏やかなだけどどこか寂しい顔で私を見返してくる。 「腹に食いもん入れないとなお前。着替えたら簡単にサンドイッチか何か用意するから待ってろ。」 バタン…。 そう優しく言い残し絶句した表情のまま私は暫く固まってしまった。 やっぱり覚えてたんじゃない。だからあんな屁理屈を?でも最後は凄く優しかった。怒って無いのか怒って呆れ果ててしまっているのか私には分からなかった。 一度私は部屋に行こうとリビングに置きっ放しにしてある鞄を取りに戻った。ダイニングテーブルの上に置かれた鞄を手にした時視線の先に優しい笑みを浮かべ私の両サイドに立つ両親の写真が見えた。写真の飾られているキャビネット棚に近寄り徐に手に取り眺め始めた。   私の両親は私を怒ったりした事は殆ど無く今も昔もとても穏やかな両親だ。お誕生日やクリスマスなどのイベントは必ず開いてくれたし欲しい物も買ってくれた。そこは他の家庭と変わりない感じで私にしてくれていたと思う。だけど私の両親は共に仕事に忙しく私がただいまと帰って来てもこの写真の中の様な笑顔をした両親は居なかったし眠りにつく時間に帰宅したりなんて日も多かった。その事だけが唯一私は他の子と違う所だった。 この寂しさを大人になった今でもふと思い出したりさっきの様に夢に見たりする時がある。悲しくて泣いている私の頭を一度もお母さんは撫でてくれ無かったのにどうしてあんな風に感じる事が出来たのだろう。もう一度礼二に聞いてみる?…今日はいいや。
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