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片想い
バタン。車を降りただいまと自分にだけ聞こえるボリュームで呟く。それは数日前の晩の事だった。
「もしもし礼二?久しぶりね。」
電話越しに聞こえてきた小百合の声は変わらず澄んだ聞き取りやすい声をしていた。小百合のその声は昔の俺を一瞬で呼び戻してしまう。
「小百合。元気そうだな。」
「まぁまぁよ。だってそうでしょ?人間なんてそれぞれ小さな何かを抱えていたりするじゃない?」
「だよな。小百合の言う通りかも。」
「礼二。今話してて大丈夫?仕事終わったの?」
「仕事中。」
「えっ!?それを早く言ってよ。分かったまた掛け直、、」
「大丈夫。仕事中だけど電話出来る状況だから。」
「そうなんだ。こんな夜遅く迄大変ねボディーガードってやっぱり。」
「今は訳あって24時間泊まり込みの護衛なんだ。」
「わっ、大変なんてレベルじゃないわね。体壊さない様にね。昔私が教えた料理でも作って食べておけば風邪なんかひかないからさ。」
「懐かしいなぁ。良く作ってくれたよな小百合。料理上手だからな。」
「あはは。懐かしいわね本当に。」
「最近そう言えば作ったな俺。小百合の料理幾つか。」
「本当に?」
「美味いって食べてたな。」
「…雅さん?」
「ああ。」
「そう…。」
小百合との懐かしいこの感じに浸る。
「それで?いきなり電話してきてどうかしたの?」
「本題に入るわね。実は母が病気で経過があまり良くなくて。」
「おばさんが?」
「うん。一応礼二にも連絡しておこうと思ったの。」
「それで今は病院に居るの?」
「今は家で過ごしているわ。だけど薬が強くて副作用が辛いみたい。見てるこっちが病んでしまいそうになる。」
「可哀想だな。おばさん。あんなに元気だったのに。」
「そうね。それでね、、」
「行くよ。俺。」
迷いなど無く俺は言う。
「だけど護衛中なんじゃ…」
「そこは話し付けるから大丈夫だよ。だからまた連絡する。」
「分かった。ありがとう礼二。」
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