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俺は小百合に想いを寄せていた。
顔を合わせれば必ず笑顔をくれるそんな小百合がずっと好きだった。
1人っ子で育ち学校から帰って来ても1人の俺は今と違ってまだ子供だったし寂しいとかそんな気持ちを感じながら過ごしていた。高校に上がって両親が更に多忙になりその時に小百合の家に俺は通い始め小百合との交流も進行していった。おばさんに娘が居る事は知っていたし何回か小百合とも会った事はあったがきちんと向き合って会話をするなんていう機会は無かった。だけど毎日の様に小百合の家に通ううちに気さくな小百合は俺との距離を直ぐに縮めまるで家族の1人として接してくれた。そんな小百合と話をしている間だけは寂しいとかそんなマイナスな感情など忘れてしまう位に心が満たされていった。同時に俺は小百合を1人の女性としても意識していく様になったのだ。けれどそれだけ。小百合には付き合っている男性も居たしそもそも最初から俺を弟的存在にしか思ってないのだと側に居て感じた。俺はそれでも良かった。小百合とこうしてテーブルを囲み晩飯を食べられる僅かな時間がその時の俺にとっては凄く幸せだったから。小百合が他の誰かを好きで例え俺のものにならなくても目の前の小百合を失わずに済むのであれば俺はもうそれだけでと思っていた。そして小百合の幸せになっていく未来も俺は密かに願っていた。
けど…小百合のあんな瞳を見る事をあの時の俺は想像していたか?
俺の中の小百合は何時も笑顔で周りの人を明るく照らす様なそんな女性だったはずだよな。
だから変わらず俺の前に映る小百合もそうでなくてはいけないんだ。
さっきからそんな事ばかりを強く思っていた。
「ねぇ。雅さんってどんな女性?」
プリンをスプーンですくいながら小百合は口を開いた。
「どんなって。まぁ今時の若者って感じだな。小百合に比べたらまだまだ子供で手が掛かる。」
「ふ~ん。そうなんだ。お嬢様とはいえ普通の子なのね。」
そう言うと小百合はすくったプリンを口に運んだ。
「今のあいつは普通じゃ無いな。」
「あいつなんて呼び方してそんな仲なの?それに普通じゃ無いって?」
「反抗的な年下にはそれで良いんだよ。それに絶賛恋に暴走中だ。見てるこっちがヒヤヒヤする。」
「そっか。まだ恋に夢中になる時期だもんね。はっきり言ったら仕事よりも恋を優先するのが正常な女性かも。持論ですが。」
「そう考えると男と女の恋の捉え方って違うよな。俺はやっぱり仕事を優先してしまう。」
「大体の男性はその考えだと思うよ。だけどそんな風に思っている人程いざ好きな女性が現れたら仕事どころでは無くなっちゃったりするのよね。面白い。」
「俺は絶対無いな。」
「どうかな~。そんな断言出来ちゃうって心当たりあるの?」
「ある。」
「何時の話?」
「最近。」
「最近か…へぇ。身近に居る人だったりして。」
「ははは…身近ねぇ。」
俺はふと小百合を見るとプリンをすくおうとしていた手が止まっているのに気がついた。
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