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2人の関係
翌朝私が下に下りていくと礼二の姿は無くダイニングテーブルの上を見ると書き置きがしてあった。『午前中用が出来て出掛けてくる。出勤迄には戻る──。』と書いてあった。今週の私のシフトは遅番なので午前中は普段見られない朝の情報番組でも見ようと思っていた。だから礼二が居ない方がリビングの大きなテレビを独占出来て都合が良かった。キッチンへ向かいクロワッサンを袋から1つ出しトースターに置く。タイマーを回してその間にコーヒーも入れて朝食の準備を久しぶりにやった。普段は斉木さんや礼二がやってくれるからたまには自分でやるのもなんだか楽しい。1人暮らししてるみたいで。まぁ、でも私は立場上1人暮らしなんて許してはもらえないんだと思っているからあえて言わないけど。だけどきっと1人暮らしが許されたとしてもどうせ礼二やら誰かしらの出入りはあるだろうし完全に1人になんてなれはしないのよね。昔はね、両親が恋しかったりもしたけど大人になった今は1人の空間も欲しいなってそんな事も思ったりする。
クロワッサンが焼けるのを待ちながらコーヒーを片手にソファに腰を下ろしテレビのスイッチをつけた。朝からワハハとタレントが笑い私もクスクスとつられて笑ってしまう。手にしていた熱々のコーヒーを少しずつ啜りながら見ていると礼二に顔立ちがそっくりなタレントが映った。番宣でこの番組にゲストとして出ておりまだ新人の俳優であの切れ長な目元や整った輪郭が良く似ていた。私は礼二と被るその俳優に釘付けになり気付けば口が開けっ放しになっていた。
チンッ。
トースターの音で我に返った私はコーヒーを置きキッチンへクロワッサンを取りに行く。白い小ぶりの丸皿にこんがりと焼けた香ばしい香りのクロワッサンをのせてまたクッションに腰掛ける。サクッと音を立てながら一口頬張るとバターの香りが口に広がり朝から優雅な気持ちになる。そういえばクロワッサンの袋がまだ開封されていなかったけど礼二は朝ご飯食べたのかな…。しかも朝からの用って何なの?まだお店だって開いてないのに。何処に行ったのよ礼二は…。
いつものなんてこと無い普通の朝なのに私は礼二の事ばかりが気になって仕方が無かった。
「小百合。」
「あ、お母さん。おはよう。」
カーテンを開けていた私の後ろで声がして振り向く。
「今朝は何だか気分がとても良いの。」
顔の表情が普段よりも柔らかい。いつもは体調が優れないせいで強張った顔をしているから。
「それは良い事だけどどうしたの?」
「夢を見て。」
「どんな?」
「小百合と礼二君の夢。」
「礼二が出てきたの?」
「そうなの。2人が結婚式を挙げてる夢だったわ。」
「えっ?私の花嫁姿また見たって事?」
「えぇ。前よりも貴女笑って幸せそうにしてたわよ。」
「そう…。」
「この間私のお見舞いに礼二君来てくれてたのに寝てしまって残念だったわ。今度来たら起こしてね。ゴホッ、、」
「お母さん大丈夫っ?」
「しゃべりすぎたかしらね。少し休むわ。」
「うん。分かった。」
そうねお母さん。
お母さんにも私の気持ちが分かってしまうのかしら。
誰と一緒に居たら幸せになれるのか…。
私は部屋を出てダイニングテーブルに伏せてあるスマホを手にする。用が済むとお母さんの朝ご飯を準備しにキッチンへ向かった。
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