堺さん

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堺さん

「ちょっと、居るんなら先に言ってよ。」 「居ます。お嬢様。」 「その呼び方なんか腹立つ。」 「たまに呼ばれてるだろ?」 「あんただから嫌なの。」 「雅様。それは失礼致しました。」 「っ!?はぁ…もう良いです。」 フンッと鼻で笑いカンカンと下へ下りてくる礼二。私は貴重な休憩時間を無駄にしたく無いので再びサンドイッチを食べ始めた。 「よいしょ…え?」 私が座ると横に腰を下ろしてくる礼二。そんな礼二に向かってさっきからモヤモヤして仕方が無いこの気持ちをぶつける。 「あのさ。今休憩中なんだよね。分かる?でね、私はゆっくり一人で食べたり飲んだりしたいの。でねでね、この場所は私が最初に見つけた秘密の休憩場所な訳だから貴方に入ってきて欲しくないの。しかもこんな所に危ない人居ないからきっと。街中じゃあるまいし。」 「誰が最初に見つけたって?証拠は?」 「証拠なんて無いけど、見つけてから誰も来ないしとにかく私の秘密の場所なんだから。入ってこないで。」 「まったく。分かって無いな。俺の仕事は何だ?」 「は?私のボディーガードでしょ?それがどうしたのよ。」 「お前それを分かっててそんな事言ってたのかよ。いいか。ボディーガードってのはな、ただ近くに張り付いて命を守るだけじゃねぇんだよ。護る相手の周辺にも気を配りちょっとした変化にも気付き細心の注意を払う。それがこの仕事の基本だ。頭入れとけ。つまりここはお前が見つけるずっと前から俺が下見して見つけて丁度良いから昼寝もしてたって具合だ。お前こそ俺の場所取るんじゃねぇよ…ったく。」 「あっそうですかっ!それはそれは失礼しました。でも仕事中に昼寝なんてお祖父ちゃんに言いつけちゃおっかな。」 「言いたきゃ言えよ。どうぞ~。」 口を前に尖らせて手で促す様な仕草を取る。そしてこんな間近に居たら言い返せない程の整った顔立ちが腹立たしかった。 菊田礼二は私の6つ上のボディーガード。私なんかが何で今時そんなドラマみたいな事されて護られちゃってるのかは理由がある。遡りお祖父ちゃんが昔礼二のお祖父ちゃん夫婦を不法な闇金融から助けた事からその恩で代々高嶺のご息女(ごそくじょ)をお護りするという流れになったらしい。なので今でもお母さんは引退した礼二のお祖父ちゃんに代わり礼二のお父さんに護られていて私は礼二という訳。お母さんは良いなぁ。礼二のお父さん優しくて大らかだし礼二と代わって欲しいよ。 「あぁ?何人の顔見てボケッとしてんだ?」 私はその顔に吸い込まれていた。 「えっ、いや、何でもありませんからっ。」 「あっそ。」 すると礼二は上下黒のスーツの胸ポケットから煙草を取り出しカチッと火を付け深く煙を吐いた。自分の吐く息が長い前髪を揺らし隠れていた切れ長の目が顔を出す。 口も性格も態度も悪いけど唯一この顔だけは悔しい位に文句がつけられない。
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