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私は泰幸君のオーダーを厨房に通すとお冷やとお手拭きをトレーにのせて再び泰幸君の席へ向かった。浮き立つ気持ちをなんとか抑え席まで歩いて行くと泰幸君は歩いて来る私に直ぐに気が付いてニコリと笑みをくれた。その笑顔にもういっそのこと今日は仕事を早退して泰幸君とデートの続きをしたいと思ってしまった。
「前失礼致します。」
私は泰幸君の前にお冷やとお手拭きをセットする。軽く一礼して戻ろうとした時泰幸君が私に言ってきた。
「高嶺。さっきここ来る前にあのボディーガードの人が女性とこのホテルの喫茶店に入って行くの見たんだよな。」
「えっ?礼二が?」
「うん。何だか仲良さそうにしてたな。」
「そう…なんだ。」
「確か名前…小百合って呼んでたかな。」
「なっ、何仕事中にサボって女性とお茶なんかしてるんだろうね、全く…ね。」
「はは。あの人も所詮男だったって訳だ。」
「本当だね。あっ、じゃあそろそろ料理出来たか見てくるね。」
「悪ぃ。話し掛けちゃって。」
礼二が小百合さんと何時何処で会おうが私には関係無い。けど泰幸君から2人が会ってると聞かされて凄くモヤモヤした気持ちが生まれてしまった。そしてふと最近朝早くから礼二が家を空けて何処かへ行っている事を思い出した。もしかしたら小百合さんと会っているの…?いや、そんな午前中の数時間で一体何をする?でも私の護衛で夜は特に家を空けられ無いから午前中に会う事にしてるのかもしれない…あぁ、駄目だ。考え出したらきりが無い。折角泰幸君が食べに来てくれているんだし仕事に集中しないと。
「小百合。仕事中だから少ししか時間取れなくて悪いな。そこのレストランで雅が働いてるからあんまり遠く行けなくてさ。」
「良いのよ。それを承知で来たんだから。」
「ありがとう。」
小百合から連絡をもらい会いたいとの事だったのでホテル迄来てくれるのであればと言った所、小百合は了承してくれてこの喫茶店で会う事になった。ホテルの喫茶店は雅の働いているフロアと同じ階で場所的にも御手洗と小さな中庭を挟んだ距離で近い。席に案内され座ると小百合が店員さんを呼んでコーヒーを2つ頼んでくれた。すると俺の方に改まる様に座り直し話し出した。
「この間はお母さんのお見舞いだったのに私の話なんかしちゃってごめんね。」
「そんな気にするなって。」
「礼二優しいからあんな風に話聞いてくれて甘えちゃったわよね私。もっとしっかりしないといけない時期なのに。」
「それが積もると限界がきて体調崩したりするんだから無理はするなよ絶対。もっと周りを頼れ小百合は。俺も居る訳だし。」
「礼二…。嬉しいわ。あの日悩んでた事口にしたら少し心が楽になったのよ本当に。だからね…だから…こうしてまた礼二に会いに来てしまったの。礼二だって忙しいのに。」
「良いんだよ。」
「コーヒーお2つお待たせ致しました。」
テーブルに置かれた花柄模様の品の良いコーヒーカップにミルクを垂らしティースプーンでクルクルかき回しながら小百合は口を開いた。
「そうだ。お母さんがね。ふふ。」
「どうしたの?そんな笑って。」
「いや、あのね。この前の朝いつも通りに部屋に行ってカーテンを開けていたらお母さんが言ったの。」
「なんて?」
「私と礼二の夢を見たって。」
「へぇ。」
「その日のお母さん朝から顔色も凄く良くてね、もう病気なんて治っちゃったんじゃないかなっていう位に。」
「そんな楽しい…嬉しい俺と小百合の夢だったのか?」
そう話すと首を傾けて俺を覗き込む様な目をして小百合が言った。
「私と礼二が結婚する夢だって。」
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