453人が本棚に入れています
本棚に追加
/137ページ
ゴホッ。
思わず口にしたコーヒーを吹き出しそうになる。
「そんなに驚いた?」
「驚くだろっ。」
「そっかぁ。だよね。けどさお母さんも娘の私が既婚者っていう事忘れてるみたいに言ってくるからそれもびっくりなんだけどね。」
「あれだな。きっとお母さんお見舞いに俺が行ったけど寝てて会えなかったからそんな夢みたんだな。何で結婚してるシチュエーションかは謎だが。」
俺はカップをソーサーに置く。
「有り得る未来かも。」
「え?」
小百合の顔を見る。
「受け入れられる。」
「ん?」
「私は今の貴女を全て。」
「ははは。おばさんがそんな夢見たからって俺に気つかわなくて大丈夫だから。」
そしてまたカップを持ち上げ口に流し込む。
「気なんかつかってないわ。」
「…気持ちだけもらっておくよ。」
「…。」
2人共コーヒーを飲み終わると席を立ちレジに向かった。小百合の分を一緒に払い店を出た。
「短い時間でごめんな。外迄送るよ。」
「ここで良いのに。まだ仕事中なんでしょ?離れ過ぎたら駄目よ。」
「大丈夫。走って戻るから。」
そう小百合に言うとホテルのエントランスに足を向かわせて行く。カツカツとフロアに響く足音が俺1人だけでふっと振り返ると店の前に立ち尽くす小百合が目に入った。
「小百合?」
こちらをジッと見つめている小百合。するとそっと口を開く。
「今日…話してみようかと思うの。今後の2人の事。」
俺は小百合に近付く。
「そうだな。子供の事は早い方が良いと思う。」
「子供の事は私の中で既に決着がついているの。だから2人がどうしていくかだけ。私は離婚しようと思ってる。」
「決めたんだな。」
小百合はコクリと頷いた。
「もし離婚が本決まりになったとしてお母さんには話をせざるを得ない状況にはなると思うの。離婚と言う二文字を私の口からお母さんに伝えるのはかなり酷なことだと分かってもいる。だけどこうも思うの。私は31歳で再婚してもまだ子供は産める年齢だって。若くは無いけれどチャレンジは出来るって。私が新たにスタートを切って幸せな家庭を築けばお母さんに見せてあげられるってそう思ったの。」
「そうだな。」
「想像したの。私と礼二。」
「?」
「上手くいってた…頭の中で。」
「…。」
「お母さんも礼二なら大満足よきっと。」
小百合は嬉しそうな笑顔で俺を見る。
「小百合は綺麗で性格も良くて皆の憧れだからな。そんな小百合にそんな風に言ってもらえるだけで俺は男としての自信にも繋がる。だからこれからも自分を高めて行けるように努力して頑張るよ。ありがとう小百合。」
「…上手~くかわされちゃったわね。」
「素直な気持ちを伝えただけだよ。」
「こんな時も優しいのね。礼二は。」
「そんな事無いけどな。」
「仕事戻って。私ここで良いから。じゃあね。また。」
そうあっさりとした雰囲気で手をヒラヒラとさせながら小百合は帰って行った。
俺はそんな小百合の背中から目が離せず懐かしいあの淡い気持ちを思い起こしていたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!