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小百合は寂しいだけなんだ───。
小百合の背中を最後まで見送りながら俺はそんな風に思っていた。きっと俺に言ってくれた言葉全部も小百合の不安定な感情が作り出したもので本心なんかでは無いんだ。
俺はそう自分に言い聞かせ持ち場に戻って行った。
─────────。
泰幸君にお勧めのフカヒレラーメンを持って行きテーブルに置くと箸ですくったトロッとした麺に向かって頬を膨らましフ~フ~息を吹き掛けながら黙々と食べ始めてくれた。他のお客様に気を配りながらも遠目で何回も泰幸君のその姿を目にしては心の中でニヤけてしまっていた。熱々の麺と向き合う泰幸君の顔が可愛すぎてならなかった。
「今日は来てくれてありがとう。」
私は食後のコーヒーを持って行き泰幸君に一言お礼を伝えた。
「って言うか上手かった!フカヒレラーメン!とろみのあるあんも弾力のある麺も最高だった。」
「本当に?嬉しいな。厨房に伝えておくね。実は私も大好きでこれ。」
「だよな。大好きになった俺も。また絶対食べに来るから。」
「ありがとう。」
「所で今日は早番?遅番?」
「今日は遅番なんだ。」
「そっか…いや、俺今日はこのまま直帰するからもし早番で予定無かったらこの後遊びに行かないかなって考えてた。」
「そうだったの!?う~残念。また誘って。」
「だな。急だったしな。また連絡する。」
「是非。」
折角の泰幸君からのお誘いだったけれどしょうが無いよね。仕事だもん。凄くすっごく行きたいけれど我慢しなければ。
暫くすると泰幸君はコーヒーを飲み干し会計を済ませ私が居る方に向かって小さく手を上げて帰って行った。私は泰幸君が来てくれたお陰で後半の仕事にも気合いが入っていくのを実感していた。好きな人に会えただけでこんなにやる気が溢れてくるなんて恋ってなんて素敵なんだろう。
その後の仕事も私はキビキビとホールを動き回りミスの一つもしなかった。忙しい夜だったのであっという間に時間は過ぎてその日の仕事は終わった。
私は更衣室で着替えを済ませるとまだご機嫌な表情で裏口の扉を開けた。
「あっ…そうだった。」
いつも通り壁に寄り掛かり私を待つ礼二の存在を忘れていた。しかもニヤけ顔もバッチリ見られた。ほら、早く私をからかって馬鹿にしなさいよ…。
「終わったのか。帰るぞ。」
…あれ、、それだけ?
ポカンとした顔で礼二を見る。
「ん?何だ。行くぞほら。」
「え、あぁ…うん。」
私は何時もの礼二と様子が違う事に違和感を感じ、そしてさっき泰幸君が話していた事を思い出した。小百合さんと会っていたという礼二だけどこんな様子じゃ2人の間に何かあったのかな…そもそも小百合さんがこんな所まで足を運ぶなんてやっぱり何かあったんじゃ…。横に並んで歩く礼二を何回も見ながら私は考えていた。
家に着き私は遅めの夕飯を食べるので先に礼二にお風呂を勧めた。冷蔵庫を開け礼二が用意しておいてくれたサラダとドレッシングを取り出してダイニングテーブルにあるラップの掛かったおにぎりが今夜のメニュー。夜遅いけれど体の為に食べている。あときちんと食べていないと礼二に怒られるのだ。
パクリとおにぎりを頬張りテレビもつける。パンプスでホールを歩き回ると足はむくんでパンパン。その足を伸ばし前にある椅子の上に置く。お行儀はあまり良くは無いがこうするととても足が楽になった。このスタイルで暫しのリラックスタイムを過ごす。
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