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彼の内情
「借金?」
泰幸君のお父さんの経営する会社で働いていた男性社員が偶然にも菜々子のお母さんの知り合いだったらしくその人が突然のリストラにあったそう。その後も次々と社員達が会社からリストラされた。その人の話によるともうずいぶん前から経営難に陥っていて、けれど泰幸君のお父さんは社員達の生活を守る為に必死だったそう。でも結局リストラという選択をせざるを得なくなり日に日に人は少なくなっていき会社は潰れてしまったとの事だった。おそらく多額の借金を残したままで。
菜々子は言いずらそうにしながらもことの全容を教えてくれた。
「2人今いい感じだしこんな事言うの凄く躊躇ったんだけど雅の家柄もあるし一応伝えておこうかと。気分悪くした?」
「ちょっとびっくりはしたけど…でも大丈夫。菜々子が私を思っての事だし気にしないで。」
「だよね…私が聞いた時も正直驚いた。この間の泰幸からは想像つかなかったしね。お父さんの会社がそんな風になってるなんてさ。」
「うん。そうだよね。」
「きっとまだお父さんのその状況は大変なのかもしれない。だけどそれを直接泰幸には聞けないから今現在どうなっているのかははっきりとは分からないんだよね。まぁでも泰幸自身の問題では無いからそこまで気にする必要も無いかもしれないとも思うけど。」
私は菜々子のその言葉であの日電話の向こうで聞こえてきた会話を思い出した。
「そう…だね。もう済んだ話になっているかもしれないしね。私は私で今度泰幸君に会っても何ら変わらず普通に接するつもりだよ。」
「分かった。雅のその一言が聞けて安心した。」
菜々子は私に話し終えると安堵の表情を浮かべすっかり冷めてしまった紅茶に手を伸ばし乾いた喉を潤すようにゴクゴクと飲み干した。菜々子からの話を聞いた今少しの驚きだけが生まれていたけどだからと言って私が泰幸君に対して不信感を持ったりとかそんな感情は無かった。私は泰幸君が好きだときちんと思えた。
「紅茶冷めちゃったから新しいのもらってくるね。ロールケーキ食べて待ってて。」
「ありがとう。」
私はティーポット片手に階段を下りてキッチンへ行くと礼二が椅子に座りテーブルに広げられた書類みたいな物に目を通していた。私の足音を背中で聞いたのかこちらを振り向いたかと思うとササッと茶封筒にそれらをしまった。私は気になったけれど敢えて口にせずにそのまま何も見なかったかの様にキッチンの中へと入った。
「紅茶が冷めちゃったから新しいのもらいに来たの。今忙しい?私やった方が良いかな?」
「俺がやる。先に戻ってろ。」
礼二のその言い方と表情に今日も変わらず腹が立って…というか怖かった。
「あ、ありがとう。よろし…く。」
思わず足が竦み声が震えた。
絶好調に機嫌が悪いにしてもあんな風になるだろうか?以前私の護衛が長引きご飯を食べ損ねて猛烈に不機嫌になった時があったけどあんな感じまではならなかったし。
どうしたのかな…礼二。
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