456人が本棚に入れています
本棚に追加
私は言われた通り素直に部屋に戻り菜々子と一緒にまだ手をつけていなかったロールケーキをつついた。
「これ最高に美味しいよ雅。」
「…え?」
「いや、このロールケーキ美味しいよって。」
「あっ、これね。」
「やっぱり泰幸君の話気になってる?」
「違うの、単に別の事考えてただけだから。」
「本当に?」
「本当に。」
トントン。
さっきの礼二の様子が私の中でどうしてもすんなりといかなくてフォークでロールケーキをつつきながらボォ~ッとしていた所を菜々子が勘違いしてしまった。そしてタイミング良く礼二が来た。
「はい…あ、ありがとう。」
私は顔も見ずに扉の前で受け取り直ぐに閉めた。あんな顔菜々子に見せられないと思ってしまったから。
それから私と菜々子はお互いの話題が尽きるまで話をしふと時計に目をやれば17時を過ぎていた。夜は菜々子が家族に食事をご馳走するそうで帰るとの事だった。家族で食事か…暫くしてないな家は。菜々子が少し羨ましく思えた。帰る支度が整い部屋を出ようとドアノブに手を掛けた時ピンポ~ンとインターホンが鳴るのが聞こえてきた。私達は下へ下りていくと玄関に女性が1人荷物を抱え立っていた。すると私達に気が付いたその女性はこちらを見て言った。
「今晩は。何時も礼二がお世話になっています。」
柔らかな余裕のある笑顔と一緒にそう挨拶されて大人なその女性に少し戸惑いながら私も挨拶を返す。
「こ、今晩は。」
「雅さん。初めてお会い出来て嬉しいわ。あ…ごめんなさい。名も名乗らずに。横山小百合です。」
「小百合さん…初めまして。」
お世話になってるなんて礼二の知り合いのあの小百合さんに間違えなさそうだった。それに礼二の言うとおり綺麗で笑顔の素敵な大人の女性そのものだった。私はそんな小百合さんに目が離せないでいると後ろに立っていた菜々子がここで大丈夫だからと呟いて靴を履き私に気を遣って帰って行った。菜々子を玄関で見送ると礼二が私に話し掛けてきた。
「改めて思ったけど…。」
礼二が私を見ている。小百合さんの顔を見てからだとは思うけど礼二のさっきのあの鋭い雰囲気は欠片も無くなっていた。
「お前成人してるってのにまだ何て言うか…幼いって言うか…。」
「はい?」
「菜々子ちゃんと2人並んだ時もお前が妹みたいに見えたしな。小百合を見たらほど遠いな。ははは。」
お客様を前に自分の顔が般若になるのだけは
避けようと必死で怒りを堪える。
「そっ、そうね。私みたいなタイプは綺麗で大人びた女性をお手本に日々努力しないといけないわよね。」
眉毛がヒクついているのを自覚しながらも礼二にそう反抗してみる。
「だな!外見も中身もそういう志があればなんとかなるかも?しれないな。あぁ、丁度良い物がある。小百合がおかず作って持って来てくれたんだ。これ食って料理の勉強させてもらえよ。小百合の料理は最高に美味いからな。」
「押し付けがましくてごめんね。沢山作っちゃって食べ切れなそうだったからお持ちしました。」
「ありがとうございます。わざわざ。」
「ありがたく食えよ。」
「あんたに言われなくてもそうしますから。」
「あぁそうですか。」
最後は我慢出来ずについいつも通りになってしまった。
「仲良しなのね2人は。」
私が礼二に口をとんがらせていると小百合さんが言った。
「仲良し?これが?」
「恥ずかしいからって隠さなくて良いのに。羨ましいわ。私は。」
小百合さんはそう口にして私をじっと見つめた。
ん?え…今なんか圧を感じた気がするけど…ま、いっか。
最初のコメントを投稿しよう!