彼の内情

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私達とそんな会話を交わして小百合さんは礼二に差し入れを渡し中へは上がらずに玄関先で帰って行った。礼二を学生の頃から知る小百合さん。私はまだランドセルを背負った子供だっただろうし礼二の存在もうっすらとしか記憶に無い。こんなに毎日毎日側に居るのだから誰よりも私は礼二と縁があると思っていたけど私は礼二の事、実は何も知らないんだった。でも小百合さんは違う。きっと礼二を私以上に知っていて私よりも縁が深い。少し前から分かってはいたけど実際に本人を前にしたら綺麗で余裕のある大人なそんな小百合さんに礼二をで自分でも理解の出来ない喪失感に襲われた。それと同時に胸が苦しくもなった。礼二なんかいらないなんて思っていた私だったはずなのに…。 リビングに戻ると礼二は小百合さんから受け取った風呂敷を広げお重の蓋を開けた。 「うわっ、美味そ。」 一人言を呟く礼二。口角を上げ普段私に見せない顔になっている。この礼二をこんな風にご機嫌にしてしまえる小百合さんの存在が羨ましいと思った。そしてそんな礼二を横に並んで見ている私。お重の蓋を持つ細い指。見上げる位のスラリとした身長。整った輪郭と鼻筋。そしてフワリとした長い前髪の下には私に全てをさらけ出さない澄んだ瞳がある。綺麗な小百合さんと外見上は格好良い礼二。端から見ても2人は相当お似合いだった。礼二は独身で多分彼女も居ないし小百合さんも独身だったのならもしかしたら本当に2人は…。なんて礼二を横にそんな想像をしてしまう。 「晩飯これ食うか。腹減ってるだろ?」 フイッと顔を私に向けて礼二が言った。 「っ…。」 礼二に見とれていた私は何も言えず慌てて顔をそらす。するとお重の蓋をパタリとしめた礼二はいきなりダイニングテーブルに両手を付き私を後ろから囲うようにして上から見下ろしてきた。 「なっ、何してるのよ。」 「何してるじゃ無くて返事しろよ。俺の顔そんなに見たかったのか?」 「返事…?あぁ…私お腹空いてないから礼二食べて良いよ。」 見るからに美味しそうな料理だったけど色々考えてたら食べようと気持ちが向かなくてついそんな風に。 「自分がこんな凄い料理作れないからってそんな拗ねるな。」 「拗ねてないから。た、ただお腹空いてないだけだから。」 「それだったら菜々子ちゃんに帰る前に食べていってもらえば良かったな。こんなに沢山あるしな。あ、それにしても菜々子ちゃんってお前と同い年だっていうのに随分垢抜けて綺麗だよな。」 「確かにそうね、菜々子は私と違って元も良いし細くてスタイルも抜群だしね。垢抜け切らない私とは差があり過ぎるとか言いたいんでしょっ?」 「どうして分かった?あっはっは。」 頬を膨らましながら礼二に振り向き見上げる。いつも外見の事をからかわれる私だけどちょっと反抗でもしてやろうと思い。 「私だって色々陰ながらやってるんだからね。ダイエットしたりお肌がツルツルになる良い香りのボディーソープ使ったり高級パックしたり、、」 するとフワリとした礼二の前髪が私の首筋をくすぐった。 「さっきから気になってた…この香り。」 私の耳元でその香りをまるで確かめる様にスウッと小さく息を吸い込むと礼二の鼻先が耳たぶに触れた。私は激しくなっていく鼓動で体を動かせずにいるとまた礼二は口を開いた。 「耳…真っ赤だな。」 「はっ、、」 そう言うとニタッと笑い私を見てきた。 「で~?お肌がツルツルになるんだっけぇ ?」 次の瞬間私のダランとした開放的な袖口に指を潜らせ礼二のその指が肌の上でスケートでもするみたいに上っていく。相変わらず固まったままの私の体は一気に鳥肌が立ち乱れる呼吸を整える事で頭がいっぱいだった。煽ってくる礼二が悔しくてだけどそんな礼二を振り払えない自分がいた。 「そうだ。ここ…。」 礼二は私の腕から指を離すと後ろ髪をサイドに避けて露わになったうなじをもう片方の指で上から下へゆっくり焦らすように線を引く。 「見えない部分も男は見てる。」 以前の記憶がまた蘇り触れられた箇所が熱を持つ。 「手伝ってやるよ。」 「手伝…う?」 「一緒に風呂入って剃ってやるって言ってんの。」 「ちょっ、何言ってんのよっ!」 私はバッと礼二の手をどけて向き合う。 「ムキになるって事はお前どんな想像してんだよ。」 「どんなって。だって礼二がそう言ったんじゃない。」 「ただ俺は一緒に風呂入って剃ってやるしか言ってねぇよ。」 「ほら、言った。」 「何お前。裸の付き合いしたい訳?俺は散髪屋のイメージだったんだけどなぁ。」 「えっ、、」 「良いぜ。何なら今から入るか。折角だし服でも脱がして差し上げますよ。雅お嬢様。」
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