突然の

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突然の

仕事が終わったので更衣室に向かいスマホを手に通知を確認しているとお母さんからメッセージが入っていた。家に帰ると私は部屋に入るなりベッドに腰を下ろしてお母さんに電話を掛ける。 「もしもし雅?」 「お母さんどうしたの?」 「仕事終わった?」 「うん。今帰って来たとこ。」 「あらそうなの。お疲れ様。ちょっと話があってね。」 「うん…。」 お母さんの話に耳を傾ける。 「転勤っ!?」 その言葉の意味がどうしても納得出来ず少し強めの口調で問いただす。 「私が転勤って何でそうなるのっ。」 入社してまだ1年そこそこで仕事にもやっと慣れてきたし厨房やホールの人達とだって大きなトラブル無く働かせてもらっている。自宅からホテル迄の通勤距離も特別近い訳では無いけれど通い易い距離ではある。それなのに何故…理解に苦しむ。 「他のレストランも見ておいた方が今後の成長に繋がるかなと思っての事なのよ。今働いている中華レストランで雅が得たスキルを持って更にフレンチや和食なんかの知識も身に付けていってくれたらもっとスキルアップも期待出来て高嶺ホテルの発展にも繋がっていくと思うんだけど。」 「そうだけど…。」 「レストランだけじゃなくて今後はフロントや裏の仕事も経験してもらうけれどね。」 お母さんの気持ちは分からなくも無かった。1人娘である私にホテルを継いでいって欲しいと望むその思いが私の胸に響いてくる。 「でももし私が他のレストランで働くと決まったとしてもなんとか自宅から通える距離なんでしょ?って言うかそうして欲しいんだけどな。(引っ越しなんてなったら泰幸君と会えなくなる。)」 「それがね…新幹線乗っちゃう?感じ。」 「えっっ、、遠いいじゃない。」 「うん…。なんだけど今度はフレンチレストランで勿論味は保証済みだから。」 「それは言われなくても当然分かってるわよ。家のホテルなんだし。」 「あっ、そうそう。無料賄い付きみたいよ。良かったわね。絶品フレンチがタダよ。」 「う…それは…良いかも。」 「でっしょ~。じゃあ詳細が決まり次第また連絡するわ。あっ、そうそう礼二君と元気に過ごしてね。またね。」 プツッ…。 そうして思いもよらないお母さんからの電話で私は地方のフレンチレストランへの異動が決まってしまった。私は1つの店舗(中華)だけに拘りは正直無い。働いている環境も申し分ないそんな場所で正直自分はこんなに恵まれていて良いのだろうかと疑問に感じる時もあった。きっと世間を見渡せば残業手当ても少なければ人間関係だって良好で無い会社は山ほどあるだろう。そんなストレス社会で毎日ヘトヘトになるまで働き病に倒れたりする人もいる。その人達に比べたら私は…。電話を切った後私は改めて考えお母さんに返事をした自分に納得した。心残りはあるけれど。泰幸君…。月1で帰って来て遊んでもらおうかな。向こうの店舗のシフト次第だから月1さえも難しくなっちゃうかもしれないけど…。
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