突然の

3/9
前へ
/137ページ
次へ
数日後。 お母さんから転勤についての詳細連絡はまだ無かったけど引っ越しするにあたり普段忙しくて出来なかった断捨離でもしようと休日を利用して黙々と手を付けていた。クローゼットと洋服ダンス両方から洋服を取り出すと次々ベッドにバサッと放りガランとなった光景が何だか清々しかった。ベッドに広げた服を着る着ないに分けていき、着なさそうな服でシミも無く綺麗な服は菜々子にも少しあげるつもりで紙袋に入れていく。仕分けをしていくと徐々に片付いていき着る服がぐんと減ってしまった。だけど次に行く店舗に慣れるまで当分の間はゆっくり遊びに行くなんて余裕も無いだろうから持って行く洋服は少なくて事が足りそうだった。 ピンポ~ン。   そんな中洋服の片付けに夢中になっているとインターホンが鳴っている事に気が付いた。いつも通り礼二が出るだろうと私は特に意識はせず手元の洋服の仕分け作業を続けていた。でもまた少しするとインターホンが鳴り気になった私は廊下に出て2階にも設置してあるモニターを確認した。すると小百合さんがそこに映っていた。何やらソワソワしている様にも見てとれた。私は階段を下りてリビングに居るであろう礼二の元へ向かったが扉を開け見渡してみても姿は無くそのまま次に礼二の部屋へと行ってみても礼二は居なかった。前に1人の時家に誰か来ても絶対に出ないと両親や礼二にも言われていた事がある。だけどモニター越しに映るのは私も知っているあの小百合さん。私が玄関に入れた所で誰も何も咎めないだろうと思い玄関の方へ体をクルッと回転させてガチャリとドアノブに手を掛けた。 「あっ…雅さん。」 「こんにちは。」 「こんにちは。あの…礼二は居ますか?」 リビングを覗き込む様な素振りをみせながら小百合さんは言った。 「それが今探してたんですけど出掛けているみたいで…あぁ、やっぱり靴が無い。何処行ったんだろう。」 礼二の黒の革靴が見当たらない事に気が付いた。 「そうなのね。実はこの前の料理が入っていたお重を取りに来たんです。」 「あぁ、それなら洗ってあります。今持って来ますのでちょっと待ってて下さい。」 「はい。」 私はそう言ってキッチンへ行き礼二が洗って伏せておいたお重をセットして持って行った。 「すみませんお待たせしてしまって。」 「いえ…。」 お重を渡して用が済んだと思いきや名残惜しそうな雰囲気を感じさせる小百合さんを見て私は。 「…あの。礼二が戻って来るまで良かったら中で待ってますか?コーヒーいれますね。」 お料理のお礼をとお茶に誘った。 「そうですか…じゃあお言葉に甘えて。礼二が帰って来るまで。」 そう言って小百合さんを家に招き入れた。シューズクローゼットの横にあるスリッパを小百合さんの足元に差し出すと「すみません。」と言ってストッキングを纏った足をそれに収めた。チラリと目に入ってきた細い足首は今にも折れてしまいそうな程だった。リビングに入りダイニングテーブルの椅子に座ってもらいコーヒーを入れ終わるまでキッチン越しに話をした。 「雅さんは今日お仕事お休みだったんですか?」 「はい。そうなんです。」 「平日がお休みなんですね。レストランだから土日は休めないのか…。」 「一応シフト制なので休め無い事はないんですけど基本的には出勤が多いですね。」 「飲食の仕事だとそうなってしまいますよね。じゃあデートの予定立てるのも大変そうですね。」 上目遣いでお茶目に小百合さんは言う。 「は…はい。」 ティーカップにコーヒーを注ぎ小百合さんの前に置くと「どうも。」と小さく呟いて綺麗な白い指でティーカップを持ち口に運ぶ。私も対面に座りコーヒーを手に取る。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

456人が本棚に入れています
本棚に追加