突然の

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一口飲んだかと思うとまだ熱かったのかコーヒーをソーサーに戻し小百合さんはリビングの周りを見渡し始めた。そんな小百合さんの顔を私はコーヒーを啜りながら見ているとある場所で小百合さんの目が留まった。私はティーカップを口から離し小百合さんの目線の先を追い掛けるとキャビネット棚に飾ってある写真をどうやら見ている様子だった。家族写真や高嶺ホテルの創業当時の写真等がそこにはあった。 「雅さん。この時は今とあまり変わっていないようだけれど最近のものですか?」 「えっと確か3年前だったと思います。私が成人した年に記念に家族写真を撮ろうとなって撮りました。」 「そうだったんですね。雅さん可愛い。それにご両親も品があってとても素敵。」 「ありがとうございます。」 「高嶺ホテル…。」 「あ、はい。」 フッと写真から目を伏せた小百合さんはコーヒーを再び口にするとまた一口だけ飲んでソーサーに戻しこう言った。 「礼二と雅さんってどちらかと言うとみたいよね。」 コーヒーが気に入ってくれたのか口調に親近感を感じた。 「兄妹ですか?」 「そう。この間私が来た時玄関で2人のやり取り見てたらそんな風に思ったの。」 「あぁ…なんかすみませんでした。下品な所をお見せしまして。」 「いえ別に。ただ私に見せる顔と雅さんに見せる顔を分けてるなって。私と居る時の礼二はね割と大人であんなにベラベラ砕けた会話なんてしないの。それに紳士で優しいわ。」 「優しい…?」 「あんな感じだけどわざとそうしているだけなのよ礼二は。本当はとても良い人で優しい男性よ。」 「はぁ。そうですか…。」 「昔。礼二が家で一緒に夕飯を食べていた頃。私とお母さんにバイト代が出たからって言って良くケーキやプリン、誕生日が近いと花束なんかもプレゼントしてくれたわ。嬉しかったなぁ。」 あの礼二がプレゼント…信じられない。もらった事無いし私。 「そういう事以外にも礼二は私に良くしてくれて。最近もそうだった。礼二には感謝してるの私。」 すると柔らかな表情をしていた小百合さんの顔が急に真顔になり私を見つめる。 「礼二はね。家の狭いリビングで高級な物は作れなかったし時には見切り品のお惣菜でも美味しい美味しいって一緒にはにかみながらご飯を食べてくれていたの。例えそれが愛想笑いだったとしても私達は嬉しかった。だけど私はその礼二の笑顔は本心から溢れてくるものだとずっと思っているわ。雅さん家のこんな広い立派なリビングで礼二があんな風に私に見せてくれた笑顔をしているのが想像出来ないのよ。」 「えっ…。」 私は小百合さんが何を言わんとしているのかが全く分からなかった。 「礼二はだから雅さんと居る。」 「は…い。」 「もしも。もし貴方が礼二の事が好きで付き合ったとしても礼二が可哀想なだけなのよ。」 「…。」 「貴方と礼二では身分が違い過ぎる。」 私はそう話す小百合さんの目をじっと見つめ返していた。 今日小百合さんに上がってもらったのはお料理のお礼がしたかっただけではなくて私の中の礼二への想いが小百合さんを前にした時どんな風に変化していくのかが知りたかったというのもあった。あの日…礼二に全てをぶつけた日から私が礼二を考えない日は無かった。顔を合わせれば気まずくなるかと思っていたが礼二は至って普通だった。仕事中や行き帰りの護衛の時も礼二を側で感じながら頭ではその礼二を普段の倍は意識してしまっていた。だから…。  私は私を確かめたかった。
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