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「そう言えば小百合の用事って何だったの?」
駅に向かう道を歩きながら俺は訪ねた。
「気晴らしに買い物でもしようかと思って色んなお店見て回っていたの。」
「そうなのか。良い物あった?」
「な~んにも買わなかったわ。」
両手を控え目に上げ手のひらを開いて見せた。
「素敵な洋服はあるにはあったんだけど。」
「だけど?」
「結局買っても何処に着て行くのかな私はって思っちゃって。デートもしないのに。」
「…そうか。」
「ごめんっ、また困らせちゃう礼二の事。この間相談のってもらったばかりなのに。」
俺はそう話す小百合の横で言葉に詰まり気の利いた事の一つも言えないままでいた。
ポツッ…ん?
すると急に雨が降ってきてあっという間にアスファルトを大量の雨が打ち付け始め俺達は近くのビルに雨宿りに入った。降り始めからどしゃ降りになるまでに時間を要さなかったのでお互い髪や肩がかなり濡れてしまった。俺はジャケットからハンカチを取り出して小百合の頭をポンポンと拭っていくと小百合は俺のその手を掴み下に下ろす。
「小百合?」
小百合は手に触れたまま俺を見上げる。
「私。礼二が好きよ。前にも言ったけど貴方と一緒になりたいと思ってる。毎日考えたの。礼二以外考えられない。」
「そう言ってくれるのは男として嬉し、、」
「気休めの言葉なんか欲しい訳じゃ無いの。私は礼二の本音が聞きたい。」
小百合が俺を好きだと言った。高校生だったあの頃に欲しかった小百合からのその二文字は今の俺にはもう意味を成さなかった。
「ごめん。小百合とは一緒になれない。」
「そ…う。」
「俺。昔小百合の事好きだった。けど小百合には付き合っている人も居てそして結婚していった姿をこの目で見られて俺はそれだけで何時も満足していた。好きな人が幸せで居てくれるのならって。だからなのか最近元気の無い小百合を側で見ているうちに何とかしてあげたいとも思った。俺に出来る事と言ったら話を聞くぐらいだけど少しでも気持ちが楽になるならと。」
「助けてもらった。精神的に。」
「この前突然一緒になりたいと言われて正直驚いた。好きだったから。だけど昔の小百合への想いは思い出として記憶に刻まれそれが現実に蘇る事は無かった。」
「良く…分かった。」
小百合は触れていた俺の手から離すと俯き力の無い声でそう言った。
「とても残念だわ。」
「ごめん。」
すると俯いた顔をまたパッと上げて礼二を見上げる。その表情は穏やかで。
「私焦ってた。この歳で離婚するなんて。再婚相手を探す時間は無いしそんな事していたらどんどん歳をとって赤ちゃんが産めなくなっちゃうって。そう思っていた矢先に礼二が現れて雅さんの存在も気にはなってた。前みたいに沢山話して私は礼二と居たいと強く思う様になった。でも冷静になってみたら寂しいからって礼二に甘えてしまったのかもしれないわね。」
「良いよ全然…というか雅を気になってたって何で?」
「女性だからよ。」
「小百合の前で下品な会話するあいつが?」
「それは礼二がからかって誘導するからでしょ。貴方達2人は兄妹位仲良しで私はそれに嫉妬した。」
すると今度は斜め下から俺を覗き込みばつが悪そうな顔で言う。
「だからさっき礼二を待ちながらコーヒーを頂いていた時、雅さんに礼二を取られてしまうってそんな風に思って酷い事言っちゃったわ。謝っておいて。」
「そうだったのか。分かった。伝えるよ。」
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