突然の

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忙しかった仕事が終わり急いで着替えをして泰幸君の待つワインバーに礼二と向かった。教えてもらった道を歩いて行くとお店の前に看板が立て掛けてあり直ぐに分かった。礼二は後から入るので私が先に入った。すると2名がけのテーブルに泰幸君が座っており私に向かって手を上げた。今日もスーツで素敵だった。 「ごめん泰幸君。待った?」 「待って無い。今来たから俺も。とりあえず適当に頼んでから話そうぜ。」 泰幸君はメニューを開いて私にも尋ねながら決めていく。ワインは2人共赤にした。店員さんにオーダーを通すとメニューをパタンと閉じて早速泰幸君は本題に入った。 「高嶺。転勤の話は本当なのか?」 「本当。私も聞いて驚いた。」 「でも何で今なんだ?説明あったんだよな?」 「うん。親がね私に今のうちに沢山のスキルを身に付けていって欲しいみたいでさ。これからはレストランだけでは無くて裏の仕事にも携わる様になるみたい。」 「そうか。両親の思いも分かるけどな。高嶺の将来を考えての事だもんな。だけど地方はきつい。こうやって仕事帰りに吞みに誘えなくなる。」 泰幸君は眉毛を下げて残念そうにそう言った。私はちょっと嬉しかった。 「ありがとう。でも私も向こうで色んな知識を得て帰ってくるからそうしたらまた吞みに誘ってよ。」 「いや、俺が休みを高嶺のシフトに合わせれば月に何回かは会える…なんてな。部長に怒られる。」 「うふふ。」 「赤ワインお待たせ致しました。」 泰幸君が嬉しい冗談を口にしていると頼んだ赤ワインが運ばれてきてお互い手に取るとカチンとグラスを合わせた。泰幸君は勢い良くワインを流し込むと静かにグラスをテーブルに置く。そしてこんな話を始めた。 「高嶺ってさ。良くドラマとか見てる?」 「うん。見てる見てる。」 「やっぱりな。じゃあ思い出さない?こういうシーン。」 「シーン…男女がワイン吞んでるシーン?」 「そっちじゃ無くて。彼氏が転勤してしまうシーン。」 「あぁ、そっちね。あったね前回のドラマで。確か最後は結婚してハッピーエンドなんだけど彼氏の転勤で彼女が寂しいよ~って泣いてたね。」 「あの設定は彼氏彼女で既に男女の関係が成立している上で話が進んでいくけど俺達はカップルじゃ無いよなぁ。」 が引っ掛かった。 「そ、そうだね。」 「高嶺。転勤て何時まで?」 「それが聞いて無くて。早く帰って来たいとは思っているんだけど。」 すると泰幸君は深く息をして私を真剣な表情で見つめてきた。私はそんな泰幸君の目に捕まってしまう。 「俺。高嶺が好きだ。」 「っ。」 「付き合って下さい…いや、結婚して下さい。」 えぇっ!? 思わず持っていたグラスを落としそうになってしまった。
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