突然の

9/9
前へ
/137ページ
次へ
泰幸君の顔付きがいきなり変わって何を言い出すかと思えばなんて動揺しない訳が無く目は泳ぎ頭はパニック状態だった。まだ付き合ってもいないうちから結婚だなんて気持ちもついて行かない。でも突然どうしてそんな事を泰幸君は言い出したのだろうか。私は思わず聞き返してしまった。 「結婚?」 「突然だったよな、驚かせてごめん。」 泰幸君の顔が少し緩んだ。 「う…ん。」 「今はお互い仕事場もこっちで会おうと思えば仕事終わりにこうしてご飯も一緒に食べられるけど地方に行ったらそうもいかない。さっき聞いたら高嶺は戻って来る時期も未定でもしかしたら何年も向こうで過ごす事になるかもしれない。それはつまり俺とも余り会えなくなってしまうって事だよな。あのドラマの2人みたいに。」 「そうだね…。」 「付き合うというのが順番で言うと一般的なんだとは思う。だけど余り会えない状況の中で正直不安なんだ。そんな事は無いと思いたいけれど気持ちが遠のいてしまうんじゃないかって。だからもし高嶺が俺を想ってくれているのであれば俺はそれを望んでいる。高嶺は…どう思ってる?」 「えっと…わた、私は…、、」 戸惑いを隠すのに必死になっている?私は。 「高嶺ごめんっ、うん、急過ぎた。」 「う、うん。」 「一度持ち帰って考えてみて。返事はそれからで大丈夫だからさ。」 「分かった。なんか直ぐに言えなくてごめん。」 私がそう言うとニコリと笑って頷いてくれた。 その後次々と料理も運ばれてきてそれからは普段と変わらない雰囲気で私達は食事を楽しんだ。だけど私は泰幸君を前に終始ずっと考えている事があった。 泰幸君にプロポーズされた際に動揺してしまった事だ。 お付き合いを飛び越えて結婚という二文字を出されたからかもしれないけれどそうじゃ無い様に思えた。 動揺だなんて普通好きな人に結婚しようとプロポーズされたら感極まって泣くとかそういう風になるはずなのに私はそうでは無かった。 そんな自分に困惑した。 ふと後ろを振り向いてみるとサングラス姿の男性が離れた席で煙草を吸っている。 私とその席との間の距離がやけに遠く感じて1人歯がゆさを感じていた。 ──────────。 出された料理を全て食べて私達は帰る事にした。最後改札で泰幸君は何時にも増して感じ良く私に手を振り帰って行った。きっと泰幸君なりに気をつかっているのだと思った。 「帰るぞ。」 スッと後ろに静かに立ち礼二はそう言った。 「さっきの…全部聞いてたよね?」 「あいつ声通るからな。」 「礼二はどう思った?」 「は?」 「あっ、だから単にどう思ったかなぁって。」 「成る程ね~。そんなに優越感に浸りたいのかお前は。いや~雅お嬢様おめでとうございます!あんな素敵な方とご結婚されるなんて羨ましい限りでございます。早く私も雅お嬢様の様に幸せな結婚がしたいものです…どうだ?こんなもんで満足か?」 「もういいっ!」 人が真剣に聞いてるって言うのに礼二のヤツ本当腹立つっ。真剣に…聞いてるのに。 「…何で俺に意見求めてんだよ。自分の気持ちに従えば良いだけだろうが。」 ギュッと下で拳を握る。 「成人して1人の立派な女なんだよな?俺に体張って証明したのはどこのどいつだよ。」 「!?」 「自分の人生、人に決めてもらおうなんてするな馬鹿。」 「…。」 「2番線に電車が参ります。」 ガタン…ゴトン。プシュー。 私のやることなすことに口を挟んできたくせにこんな時だけ何も言わないなんてそっちの方こそ都合良すぎなのよ。私は今貴方の言葉が聞きたいのに…。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

456人が本棚に入れています
本棚に追加