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嬉しいやり取り
仕事が終わりホテルの裏口から出るとズボンのポケットに手を入れ壁に寄り掛かりながら立つ礼二が居た。私は来月の15日仕事を休むと伝えておこうと思い駅までの道を横に並んで歩きながら話を始めた。
「来月の15日なんだけどその日休むから礼二も休みにして。」
「何処か行くのか?」
「うん。高校の友達に誘われてるの。」
「何処まで行くんだ?」
「まだ詳細は聞いてないから知らないの。」
「じゃあ分かったら俺に連絡しろ。」
「えっ、何で?」
「は?こっちが何でだ。」
「まさかついてくる気?止めてよっ。もう大人なんだし遊ぶ時位は好きにさせてよ。」
「それも仕事なんだよ。まだ分かってないのかお前は。」
「無理無理。絶対ダメ。」
「は?」
「だって、雅この人まだ居るのってなっちゃうもん。皆に逆に怪しまれる。」
「今更かよ。そんなん前からだろ?」
「前は前。今はその…とにかくダメだから。今回は必要無いから。」
私は礼二が一緒に着いてくる事に必死で反対していた。だって今回は泰幸君と距離を縮められる様に頑張りたいのにそんな私の周りでうろちょろされたんではやり辛いったらないと思ったから。しかも泰幸君にアプローチしている私をこの男は陰で馬鹿にしながら笑うに決まっている。考えただけでも頭に血が上る。
「頑固だな。雅お嬢様は。」
「ふんっ。」
プイッと顔を背ける。
礼二が私を護る様になってからの私の恋愛事情は大変だった。大変というのは礼二の目をすり抜けるのにと言う意味で。何時だったか私に彼氏がいた時2人だけでどうしても会いたいとなり礼二が私を自宅に送り届けた後に近くに待機していた彼氏を自宅に呼んだりした事があった。話せばまだまだある。けれど私は今まで上手いことやれてきたと思ってはいてももしかしたら礼二は全てお見通しなのかもしれない。私の身を護ってくれるのはありがたい事だけどプライベートが覗かれてしまうのはいくら礼二とはいえ私は複雑な心境だった。
「高嶺ホテル。」
「それがどうしたのよ。」
「今ではその名を知らない者など殆ど居ない。」
「そ…うだね。お祖父ちゃんも家の両親も凄いよね。」
「知名度が上がればそれだけプラスにもなればマイナスになる時だってある。」
「どういう事?」
「人間は何を考えてるかなんて分からない。有名になったこの高嶺ホテルに対し良く思わない輩も出てくるだろう。知らない内に妬まれたりするんだよ。」
「…。」
「そんな輩は何をしでかすか検討はだいたいついている。色々なケースの中でお前も大いに関係している。」
「もしかして誘拐…とか?」
礼二は私の方を見て頷いた。
「まっ、でも俺が誘拐するんだったらもっと大人で色気のある女性を望むけどな。」
そう言うと目線を落とし下から舐めるように私を見上げてくる。
「あっそう。じゃあ私は心配いらないわね。あ~安心した。誘拐なんてされなさそうで。」
「それは良かった。」
「やっぱり腹立つあんた。」
2人になると何時もこんな具合に喧嘩の一歩手前みたいな感じになってしまう。もはやそれも慣れっこになっていたのだった。
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