迷い

1/3
前へ
/137ページ
次へ

迷い

数日後、私は夜お母さんに電話を掛けていた。転勤の詳細をまだ聞いていなかったからだ。とりあえず一番知りたかった事はどれ位の期間向こうで働くのかという事だった。地方は地方の良さがあり楽しいとは思うけどきっと私は長ければ長い程地元が恋しくなり帰りたくなってしまうだろうと思ったから。それと同時に泰幸君の顔が頭にちらついた。 「もしもしお母さん?雅だけど。」 「あら雅。どうしたの?」 「あのさ、私の転勤の詳細どうなったか教えて欲しくて連絡したの。もう分かるかな?」 「あ、そうよね。うん。今決まっているのは期間が2年という事ね。だけどお店の状況で前後するかもしれないから頭入れといてね。」 「2年前後…分かった。ありがとう。」 「雅ごめんね。今仕事中で。また色々決まったら連絡するわね…あっ、後ね少し問題が発生して滞在期間が伸びそうなの。礼二君にも伝えたから引き続きよろしくお願いね。じゃあね。」 ツー…。 「えっ、あっ…はぁ~。」 私と礼二の2人暮らしはまだまだ続行という訳ね。 2年かぁ。それって長いのかな?知らない土地に2年はやっぱ長いか。食べ物は何が有名かな?観光名所は?有名なテーマパークとかあるかも?って遊びに行くんじゃ無いし。肝心な仕事場であるレストランはどんな雰囲気だろう。厨房とホールの連携など最初良く見ておかないと。ホールの皆さんも堺さんみたいな明るくてさっぱりとした人が居たら良いんだけどな。早く仕事も覚えて頑張らないと…なんだけどな…。 私は泰幸君にまだ答えを出せないでいた。 「泰幸君っ。」 「よっ。また食べに来た。あの味が忘れられなくてさ。」 「そうだったの。気に入ってくれてるみたいで嬉しいな。こちらのお席へどうぞ。」 「ありがとう。」 泰幸君がまたひょっこりレストランに食べに来てくれた。予告無しに来てくれると嬉しいものだ。泰幸君は前回と同じフカヒレラーメンを頼んでくれた。私は席にお冷やとおしぼりを持って行く。 「この間は驚かせてごめん。大丈夫だった?あの後。」 「う、うん。大丈夫だよ。」 「高嶺の事気になっててさ。顔…見に来たんだ本当は。はは。」 「そうだったんだ、やだ、恥ずかしいなんか。」 「すみません。オーダーお願いします。」 「泰幸君ごめん、行くね。」 「頑張れ。」 泰幸君は私に活力をくれる。そして私を心配してまたお店に足を運んでくれる優しい人。こんな人と結婚したら理想の家庭が築けるんだろうなって誰しもが思う素敵な泰幸君。迷う事なんて無いじゃない。確かにいきなり結婚だなんて驚いたけど流れに任せてみるのも人生なのかもしれないな。大丈夫よね。優しい泰幸君だもん。心配する必要なんて無い。だけど…泰幸君との結婚を考える度にどこか晴れていかない気持ちがある。は自分でも分かり始めていた。 「高嶺さん、高嶺さん!」 堺さんがパーティションに隠れながら呼んでいる。 「あの男性ってもしや前に言ってた気になってた人?」 「あ、はい。そうなんです。」 「やっぱり。え、今日はランチ食べに来てくれたって事は2人は付き合っちゃってる感じ?」 「いえ、まだです。」 「何だそうだったの~?でも良い感じなんでしょ?」 「はい…はは。」 「見れば見るほど優しそうな爽やかイケメンだわね。高嶺さんとお似合いよ。うふふ。じゃ、彼によろしくね~。」 そう言って仕事に戻って行った。 『高嶺さんとお似合いよ───。』 泰幸君と私がお似合いだなんて堺さんも口が上手いな。 じゃあ例えば。 私と礼二はどうなんだろう…あぁ、そんな風に考えるのも止めにしないと。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

456人が本棚に入れています
本棚に追加