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君を想って
昨日はあのまま走って駅に向かいタイミング良く入って来た電車に乗り込み家まで一人で帰った。家に着くなり頭も心もぐちゃぐちゃに乱れた私はお風呂場に直行した。右へ左へ乱暴に引っ張りながら服を脱ぎ一糸纏わぬ姿になると浴室に入りシャワーの蛇口を思いっきり倒して肌に当たれば痛い位のその中で私は頭を打ち付ける。
全ての事を解毒していくかの様に。
だけどどうしても分からない。理解に苦しむ。何故礼二が私の仕事に口を挟んできたのかという事。礼二はもう何年も高嶺のボディーガードとしてやってきている訳でこれ以上はこちらに踏み込んではいけないという線引きだって心得ているものだと思っていた。でも今回のこんな予想もしていなかった事態を目の当たりにした私は礼二を自分で都合良くそう思い込んでいただけだったのかもしれない。
何を考えているの?
自分で礼二を遠ざけたくせにまた礼二が気になってしまっていた。
シャワーを済ませると礼二と顔を合わせたくなくて早々にベッドに潜り込みいつの間にか眠りについていた。
翌朝。
下に下りると普段と変わらない朝があった。礼二は椅子に座りコーヒーを飲みながら新聞を開いて目を通している。焼きたてのクロワッサンの香ばしい匂いがしてきてお腹は空いていたけど昨日の夜の事が頭に浮かび礼二を前に食べる気は起きなかった。なので私は二階から下りるなりリビングをチラリと見るとそのまま玄関に行き靴を履き始めた。するとバサッと新聞を乱暴に置く音を背中で聞いたかと思うとリビングから出てきた礼二が靴を履きかがんでいる私に向かって。
「飯食ってから仕事に行け。」
「いらない。」
「またダイエットかよ。」
「お腹空いてない。」
「空いて無くても入れてけ。仕事中ぶっ倒れんぞ。」
…ガチャ。
礼二の言葉から逃げるみたいに玄関の扉を開け私は先に外へ出た。続いて慌てて礼二も後を付けてくる。最近礼二とは必要以上の会話はしないようにしていたけど今日はそれ以上に道を歩く時も車内でも全くと言って良い程話さなかった。お互い無言のままホテルに着き「じゃあ。」とかそんな言葉も交わさず裏口から入ろうとドアノブに手を掛けたその時、礼二が後ろから私の腕をグイッと引っ張り肩を引き寄せた。そしてジャケットの胸ポケットから出した銀紙に包まれた物を広げ私の顎を掴んだ。
「なっ…何するのよ、、」
「口開けろ。」
「えっ?」
「口だよ口っ。でかい口開けろっつったんだよ。」
「はぁっ!?…っん、、甘い。キャラメル?」
「それでも食っとけ。強情。」
そう言うとスタスタと背中を向け礼二は行ってしまった。
この味…懐かしい。良く礼二と学校の帰りに食べたな…。
礼二今も好きで食べてたんだこれ。
昔の記憶が蘇りキャラメルの甘さが私のケサケサしていた気持ちをなめらかにしていくかの様だった。
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