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それは日差しの強い七月だった。高二の期末試験最終日の帰り道。礼二と私は日陰の無い照りつける太陽の下を並んで歩いていた。その日の私は試験の手応えがいまいちでこの強い日差しに負けそうな位凹んでいた。
グゥ~。
隣に居る礼二に聞こえるか聞こえないかの音量で私のお腹が鳴る。礼二を気にしながらふと思い出し鞄からキャラメルを取り出す。七月のこの暑さで一粒手にした瞬間少し溶けてしまっているのが分かった。ベトベトになった銀紙からキャラメルを剥がしパクリと口に入れ手に付いたキャラメルは唇を押し当て舐める。口に入ると何時もは硬いそれは直ぐにでも歯が通ってしまう程柔らかくて気のせいか美味しさを増した。お陰でお腹の虫も収まり試験で沈んでいた気持ちも少し上へ向いた。
満足した私はチラリ礼二を見上げる。こんなに真夏の暑い日なのに全身黒のスーツで汗の一つもかいていない。至って涼しい顔の礼二が居た。
「ねぇ礼二。」
「何?」
「長袖、暑くない?」
「暑くないよ。」
「やっぱりそうなんだ。額に汗かいてないもんね。暑いの平気なんだ。」
「平気だよ。これが仕事着だから暑くてもこの格好で居ないといけないから。もう慣れたよ。」
「へ~。そっか。大人になると仕事の関係でそんな大変な事があったりするんだね。」
「大変と迄はいかないよ。そんな大袈裟なもんじゃないから。」
「え、じゃあ礼二は私服はあんまり持って無いの?」
「そうだね。スーツばかりで私服は二年くらい買ってないかな。今持っている私服見せたら全然イケて無くて雅には引かれてしまうかもしれないな。はは。」
「そんな事無いよ。礼二はスタイル良いし顔も整ってるんだから何着ても絶対似合うからね。」
「ありがとう。雅は優しいな。」
「そんな。だって本当の事言っ、、」
「危ないっっ!!」
キキーッ!!ブルンブルンブ~ン…。
痛っっ…。
「はっ、礼二っ!?」
それは突然だった。青信号に変わり横断歩道を渡っていた私と礼二にいきなり横から乗用車が突っ込んできた。ひかれるっ!?と思った瞬間「礼二っ!」と声も出せずにその場で動けなくなった私。そしてドサッと倒れた時完全にひかれたのだと思いそっと閉じていた目を開けていくと私を抱え顔から血を流している礼二が目に入った。血の気が引き体が震えた。何とか私は起き上がり礼二に向かって名前を叫んだ。
「礼二っ!礼二っ!礼二っ!…やだっ、、」
ポトッ。
「んっ…冷た。」
礼二は目を開けた。
「雅、大丈夫…か?」
「私は大丈夫。礼二が護ってくれたから。」
すると驚く程に直ぐに立ち上がり何事も無かった様にスーツの汚れを手で払っていく。
「礼二立って平気なの?顔から血が出てるよ。ちょっとかがんで。やっぱり座ってそこ。」
「え?あぁ…はい。」
自分の指で傷口に触れ出血している事を要約確認した礼二。私はティッシュを取り出して傷口を止血する。すると手のひらにも血が流れておりこちらにもティッシュを当てる。
「手もほら傷が…ん?汗もすごい。」
「汗かかないんだけどな。俺。おかしいな。はは…。」
私は礼二が動揺しているのが分かった。
「ちょっとティッシュ押さえてて。」
私は鞄からキャラメルを一つ取り出す。
「はいこれ。食べると凄く落ち着くの。元気にしてくれるよ。溶けてるけど…ごめん。」
「ありがとう。だけど動かすと手が痛いから後で食べるよ。」
「そうだね、あっ、私紙むいてあげるから口開けて。…よし。むけた。入れるよ。」
「うん…。」
礼二の唇に溶けたキャラメルを纏った私の指が触れた。
「っど、どう?」
「甘くて美味しくて…癒やされる。あぁ…なんか一気に力が抜ける。ありがとう雅。」
澄んだ瞳を輝かせ優しく私にそう微笑む礼二に見とれてしまった。
「元気出たね。良かった礼二。ふふ。」
私もつられて微笑んだ──────。
あの日を境に礼二はキャラメルを持ち歩き出したんだよな。何かあった時の御守りとか言って。だけど未だにまだ持ち歩いていたとは驚きだったな…。
あの日を境に俺はこれを当たり前の様にポケットに入れている。口に入れれば不思議な位穏やかになり精神的リラックスを得られる。仕事柄どんな時も平常心が必要だ。
そして俺はあの日あいつの甘い笑顔を知ったから───────。
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