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礼二が瞬時に私の方に体を向けたのが分かった。知らない人だったけど側には礼二が居るし私は話を続けた。こんな腰の曲がったお爺さんを邪険になんて絶対に出来ない。
「どうしましたか?何処か行きたい場所があるんですか?」
「え、えぇ。さっきから地図を見ながら歩いているんですが一向にたどり着け無くて困ってましてね…。」
「こんな暗くて地図も見にくくなってきちゃって大変でしたね。」
「そうなんです。年寄りで目も悪いんで本当困ってました。」
眼鏡を掛けた白い髪でお爺さんは謙虚そうにそう言った。
「そうでしたか。えっと…それで行きたい場所は何処なんですか?」
「あ、はい。それが…」
─────────────え?
「逃げろっっ!!みやっ、、び、、、」
礼二が私に抱きつき一言そう言いながらズルズルと地面に雪崩れ落ちていく。私はその礼二を反射的に抱えようと両腕を背中に回す。回した手のひらに温い物を感じ表を返して見てみる。
…っつ!?
「逃げ…ろ、、」
するとその時私はドンッと突き放されとうとう礼二は地面にうずくまる。礼二が倒れた場所からは赤黒い大量の血が惜しげも無く流れていく。
「礼…礼二…」
私は怖くて足が竦み一歩も歩き出せそうに無い。声を上げて周りの人に助けを求めたくても喉が恐怖で詰まって呼吸すらもままならない。そして視界には礼二を刺した刃物を握り締めたままの老人が呆然と立ち尽くしている。
「う…うぅ、、」
助けないと…助けないと…礼二が死んじゃう。
そう心に強く思った時、信じられない程大きな声が響いていた。
「助けて下さいっっ!!!!!」
「人殺しっっ!!!」
するとその声に驚いたのか老人は曲がっていた腰を正して私達に背を向けて走り去って行った。私は震える手でスマホを取り出して119番に繋いだ。そして電話を切ると礼二に駆け寄り出血している箇所をハンカチで押さえる。けどハンカチ一枚では溢れ出る血は収まらず私はカーディガンを脱いでクルッと丸めそれを傷口に当てる事にした。
「礼二、今救急車呼んだからねっ、もう大丈夫だからね。礼二、頑張ってっ、、」
クリーム色のカーディガンは礼二の血で赤黒く染め上がっていく。そして押さえている私の両手も更に赤くなって、ふと礼二の顔を見れば目をつぶり真っ白な顔をしている。
早く、早く助けに来て。
礼二、礼二…。
ピーポーピーポーピーポー…。
サイレンが聞こえてきてやっと来てくれたんだと希望が見えた。
私は救急車が到着するまで何回も何回も礼二の名前を呼んでいた。
だけど礼二は私の呼び掛けには応えてはくれなかった。
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