君を想って

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「あ~それにしても良く寝たな。でも夢ん中に迄お前が出てきてあぁだこうだうるせーうるせー。」 礼二は日に日に元気を取り戻していった。あれだけ長い時間眠っていたのだから記憶も前後するかなと思っていたけどそんな事も無く相変わらず私をからかう礼二が今日もベッドで意地悪な口を開いている。 「はいはいそうでしたか。確かに毎回お見舞いに来てはベッドの横で起こしてやろうって話し掛けまくってたからね私。」 「そんな事だろうと思ったぜ。俺が無防備な隙を狙って普段の仕返ししてたんだなお前。きったねぇ。」 「そっ、そうよそうよっ!礼二とはまだ喧嘩の途中でもあるんだしね。」 「そうだったな…。」    礼二はいきなり声のトーンを下げた。私は気になり食い入る様に礼二を見つめた。 「俺の仕事はお前を…お前の命を護る事なんだ。」 「うん…。」 「お前がもしこの世から居なくなってしまったらその時は俺も命を絶つ。その覚悟は常にある。」 「っ。」 「転勤話をお前のお母さんに打診したのはそれこそお前を護る為だった。」 「私を?護る?」 「繋がらないだろうな。」 「え?礼二何を言おうとしてるの?ちょっと分からないんだけど。」 すると礼二は仕事中に見せるあの鋭い殺気立った目をして私にこう口を開いた。 「過去に泰幸は彼女と金銭トラブルを起こしている。」 「きっ、金銭トラブルって、、泰幸君が?」 「そうだ。全て調べ上げた。泰幸自身と家の事も。泰幸の家は父親の会社が倒産し借金がある。泰幸も父親も金に困っている。もしかしたら俺の予想ではあるが泰幸が金銭トラブルを起こしたのは父親の借金の為なのかもしれない。」 そう言えば私が遅番の日の朝たまに何処かに行ってたな。もしかしてあの時それを調べてたの…? 「お父さんの会社が倒産して大変だったっていうのは実は菜々子から少し聞いていたけど泰幸君がそんな事…ちょっと頭真っ白。」 「理由はどうであれそうと分かればこちらとしては黙って見過ごす訳にはいかない。お前がいくら泰幸に好意を抱いていたとしても泰幸は高嶺家の金目的で近寄って来た可能性は大いにある。こんな言い方はあまりしたくは無いがな。で、俺なりに予防策として泰幸からお前を暫く遠ざけて会う機会を無くし泰幸への想いを断ち切らせる事が今回の転勤の理由だ。」 「…。」 「勝手にこんな事して悪かった。けど俺がこうでもしないと口で言っただけじゃ恋に夢中なお前は反抗するだろ?俺はお前になんと言われようがお前を護らないといけないからな。」 礼二の話から私はふと思い出した事があった。 「結婚急いでたのって…それが、お金が目的?えっ、、違うよね、私の事好きだからだよね?ね?礼二…?」 「お前はそう思っておけ。」 礼二の私を気遣う言葉にジワリと目頭が熱くなる。 「…そうじゃない可能性の方が大きいの…かな。」 「どうした?」 「いや、だってさ。好きです。はい、結婚しましょう…なんて。転勤するからって話が美味いこと進み過ぎだなと思ってさ。心の何処かでそんな泰幸君について行けない自分が居たんだよね。」 「そうか。俺もいくら仕事とはいえ強引過ぎたな。許してくれ。」 「良いよ。分かったから。ありがとう礼二。」 私はニッコリ礼二に微笑む。 「お、おう。」 私の中での文字が消えていく。泰幸君を見ている間に礼二はこんな事を調べ上げていたなんて全然知らなかった。私の為に。恋に盲目になっていた私にとって礼二のこの計画は意味ある物になったんだって。家に借金はあっても泰幸君自身には関係無いとそれだけを貫いて信じてきた。けど泰幸君がトラブルを起こしたと聞いた私の気持ちは揺らぎ始めていた。
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