情なのかな

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約束の日がきた。待ち合わせ場所は前回と同じあのワインバーだった。20:00に待ち合わせをしていたけど仕事の区切りがなかなかつかなくて少し遅れて到着してしまった。 「ハァ、、泰幸君遅くなってごめんっ。」 「あぁ…。とりあえず飲み物先に頼むだろ?」 「あ、うん。そう…だね。」 ピリッとした空気を感じながら私はドリンクメニューに目を通した。あまりじっくり選ばずにとりあえず目に入ったグラスワインの白を直ぐに注文した。 「このお店。泰幸君のお気に入りなの?前回もここだったからそうかなって思って。」 「特別気に入っている訳じゃ無いけど高嶺も一度来て場所知ってるし、だからまぁ今回もここで良いかと。」 「そっか…。」 キョロキョロと周りを見渡す泰幸君。 「あのボディーガードの人今日は来てないの?」 「まだ休んでるんだよね。本調子じゃ無いから。代わりの人は居るんだけど。」 「刺されて入院したって、そんな話身近であるなんてかなり驚いたけどな。」 「そうだよね。私もそうだったからね。かなり動揺はした。」 「そうだよな。」 「そうだ、泰幸君。大分ご無沙汰になっちゃってごめんね。」 「あぁ。こっちはこっちでバタバタしてはいたから。」 「バタバタしてたの?お家の事?」 私の言葉に泰幸君の目つきが変わる。私はハッとした。ついなんとなく話の流れで言ってしまった言葉だけどでも聞いておかなければならない事があると思い私は知らないふりをして緊張しながら目の前のお絞りを手に取る。 「高嶺聞いた?菜々子から。俺の家の事。」 「うん…。」 泰幸君が話終わる迄余計な口は挟まない。 「そっか…。じゃあ父さんの会社が倒産して借金がある事も当然知ってるよな?」 「それも聞いた。」 「何で今菜々子の名前が俺の口から出たのかも分かってるんだよな?高嶺は。」 「うん。菜々子のお母さんの知り合いが勤めていたって聞いた。」 「あっ、、あのさ、父さん、頑張ってたんだよ。家族の為に。多額の借金を抱える事にはなったけど毎日毎日頑張ってたんだ本当にっ、、」 泰幸君は目をキョロキョロさせながら落ち着かない様子で私を見てくる。 「俺が社会人になってやっと稼げる様になってからは家に金も入れられるから少しだけど借金も減ってきて…って、やっぱ引くよな。」 「そんな事…。」 「結婚を申し出ている相手に借金話が浮上なんてなったら高嶺家としては間違いなくストップがかかるに違いないもんな。はは。」 「…。」 「だけど。父さんだって夢や希望を持って会社を起こし家族の為社員の為にと努力してきた。悪くなんか無いんだ父さんは。」 泰幸君は天井を見上げ大きく溜息をついた。そのユラユラした目には間接照明がキラリと反射していた。 「失礼致します。グラスワインの白です。」 私は緊張に耐えられず乾杯もしないでワインをゴクリと流し込んだ。 私の心は複雑だった。夢や希望に向かい突き進み成功する者が居る。そんな中で同じ様に頑張っているのに何時の間にか天と地程の差がついて悲劇の道を辿る者も居るという事に。「もっと頑張ればよかった。」「努力が足りなかった。」…どれも違う気がする。涙を流し後悔する人生を送る事になったとしても貴方は十分頑張っていたんだ。それは決して嘘なんかじゃ無い。
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