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「じゃあ礼二君。雅をお願いね。」
「はい。かしこまりました。」
「お土産楽しみにしていてくれ。」
「どうぞお気遣い無く旦那様。」
あれから数日後私と礼二をこの家に残して2人は海外へと飛び立ってしまった。ついに始まってしまう礼二との共同生活。私は両親の乗った車を最後の最後迄見送っていた。
「…おい。入るぞ。」
そう礼二が私に言うけれど礼二が今日から居るから少しも入りたくない。
「はい?あのねぇ、入るぞって…私の家なんですけど。」
だからもう最初っから思い切り反発してしまう。
「今は俺の家でもあるだろうが。ほら。」
「ちょっ…っ、、」
なかなか入ろうとしない私の手を掴みスラッとした礼二が玄関扉を開け背中で押さえながら中に入るように私を促す。チラホラと近所の人が家の前を通り過ぎるのでそんな周りも気になり渋々言うとおりに玄関へと入っていくと私を生意気な表情で見下している礼二。
「大人しく入ったな。分かれば良いんだ。」
「何その言い方。」
「奥様からさっき雅をお願いねと頼まれたからにはそれを全うするだけだが。」
「そうかもしれないけど家の中は安全なんだし好きにするからね私。今日は休みだしだからあんまり話し掛けてこないでよ。」
私は礼二にそう言うと雑に靴を脱いでスタスタと階段を上りバタンと部屋に閉じこもった。
ん…。
あぁ…そうか。あのまま部屋に入ってふて寝しちゃったんだっけ。ふと壁掛け時計に目をやると18:30を過ぎた所だった。喉も渇きお腹も空いた私は下へと階段を下りていく。
そう言えば物音しないな。寝てたからか私。
リビングの扉を開けると礼二は居なくて私はキッチンに向かい冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し喉に流し込んだ。
ガチャ。
するとリビングの扉が開き上はTシャツ下はGパン姿の礼二がバスタオルを頭からスッポリ被りこちらにやってくる。フワリとソープの香りをさせた礼二が私の前に立ち止まる。
下からゆっくりとタオルを被った礼二の顔を覗くとまだ濡れている髪の毛からポタリと雫が私の顔に落ちた。濡れた長い前髪から覗く礼二の眼差しが何故だか私を捉えて離さない。次の瞬間細長い礼二の指が私のその雫で濡れた頬を優しく拭っていた。
「っ…。」
顔に熱が宿っていくのが分かった。男性に触れられた事なんか初めてでも何でもないはずなのに。何か言いたいけれど頭が真っ白で言葉が出てこない。すると礼二は手を私から離しまた立ち尽くす。
「邪魔。」
「!?」
ポカンとした顔の私の肩をガシッと掴み端に追いやる。礼二はそんな私に目もくれずさっさと冷蔵庫を開け自分の分のミネラルウォーターを取り出してゴクゴクと飲み始める。そしてチラリと私を見て笑う。
「お前顔赤くなってんぞ。はは。」
「なっ、なってないしっ!」
「ふ~ん。ま、どうでも良いけど。」
「ならいちいち言わないでよ。」
「はいはい。あ、風呂先に入ったぞ。」
「見れば分かりますから。」
「飯は今から俺が作る。その間お前も風呂入れ。」
「まだ早いし私は寝る前に入るタイプなの…ていうか家の中位好きにさせてって言ったよね。私のする事に口出してこないで。」
手にしたミネラルウォーターに蓋をすると私はリビングを出て階段を駆け上り再び部屋に閉じこもった。
まだ湿っぽさの残る冷たい頬に指でそっと触れてみる。
お風呂上がりの香り…。
そしてあの指は普段ぶっきらぼうに私に放つ礼二じゃないみたいに優しくて温かかった。
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