情なのかな

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堺さんが泰幸君の伝言を私に伝えてくれてから堺さん自身も私の就業時間を気にしていてくれて早番同士にも関わらず私の周りの仕事を進んで引き受けてくれた。泰幸君と私が上手くいくように陰ながら応援してくれているみたいだった。   堺さんに感謝しながら私は堺さんより先に上がらせてもらい更衣室へと向かった。手早く着替えをし髪の毛も手ぐしで済ませて更衣室を出た。たまに礼二は御手洗を借りに出勤時や帰りに私と一緒に裏口から入ったりする事もあってその時は更衣室の扉の前に立っていたりするけど今日は姿が無く何時も通り外で待っている様だ。礼二に一声掛けてから行こうかとも思ったけど待たせてしまっているという申し訳無さから礼二には言わずにそのまま直接泰幸君の元へと急いだ。 天井の高いエントランスにカツカツと音を響かせ私は入り口の側にあるソファに腰掛ける泰幸君を見つけた。 「泰幸君っ。」 息の乱れを整えながら名前を呼ぶとクルリと振り向いた。 「お疲れ様。ちょっと外出れる?」 「待たせてごめんね。外?良いよ。」 泰幸君はソファから腰を上げ鞄を手に私と外に出た。そして人の来ない自動ドアの横に立ちながら。 「やっぱり今日早番だったんだな。実は数時間前にチラッと覗いたんだ。激混みだったから出直してさ。あの時間帯に居るって事はそうかなって思った。前に20:00に約束してたりしてたから大体この位の時間には終わるかなって。だからあえて終業時間聞かなかったんだ。」   「うん。今日は早番だったの。それで私に何か伝え忘れたって聞いたけど…。」 「あぁ、そうなんだよ。俺さ、今日車で来てるから中で話さないか?ほら、人目もあるし。コーヒーも買ってあるんだ。缶だけど。」 「そうだね。分かった。」 泰幸君に言われて断る事も無く何時も二人で食事に行くかの様にすんなりと泰幸君は運転席に私は助手席に座った。缶コーヒーを渡され一口飲むと今日の仕事で疲れた体に染み渡っていく様だった。 「はぁ。美味し…ん?」 缶コーヒーを手に一呼吸ついていると右側に視線を感じ泰幸君に顔を向ける。爽やかには変わりないがやっぱり顔がやつれてる。 「あの夜の話高嶺のご両親に話してどうだったかなと思ってずっと気になってさ。」 「お母さんとかは直ぐに首を縦には振らなかった。あ、ごめんね、、泰幸君やお父さんが悪いとかそういう意味じゃ無いからね。ただ借金があるという事が引っ掛かったみたいでどうしても。私と違ってお母さんは高嶺ホテルを継いで経営している本人だから余計にそう思うんだよね。」 「…はぁ。高嶺遅いよ。」 泰幸君が呟く。 「遅いって?」 「なんか拗れてやりずらくなった。」 「どういう事?」 「高嶺も情が移ったみたいに真剣な顔して父さんの話聞いてくれてただろ?」 「聞いたよ。お父さんは頑張ってたって。」 「俺と高嶺が結婚すれば家族になる訳で…高嶺家に援助をしてもらえば父さんは救われる。良くある話じゃないか。」 「…。」 「なぁ高嶺。このまま死ぬ迄父さん借金返していかないといけないんだよ。そんなの可哀想だよな?な?」 「そ、それは、、」 「それは?」 「家のお金だけが目的って聞こえてしまう私。」 チラリと泰幸君を見る。 「何言ってんの?俺は高嶺が好きって言っただろ?この間。」 「言われたし覚えてるよ。」 「だったら何も問題無くないか?」 「問題あるよ…。」 バンッ! 泰幸君はいきなりハンドルを両手で叩く様に握った。 「はぁ~っ。こっちが優しくしてるのを良い事に何時までも待たせてさぁ。イライラしてたんだずっと。」 「っつ。」 泰幸君の顔付きが変わりそれは、狂気に近い初めて目にする表情で私は震え上がる。 ブオンとエンジンをかけてその音にもビクリとし行き先も告げぬまま泰幸君は車を走らせた。スピードを出し何処かに捕まっていないと体が振られてしまう様な運転だ。私はそんな激しい車内でどうにか泰幸君を冷静にしなければと必死で考える。 「や、泰幸君っ!私も泰幸君を好きだったのよ。」 「…。」 「お母さんがね、私の泰幸君への気持ちを理解して尊重してくれたんだよっ!」 キキーッ!!! 道の真ん中でやっと止まってくれた。私は深く呼吸をした。 「つまり高嶺が「結婚しよう。」って言えば俺と結婚出来るんだな?」 「えっ?」 「高嶺。もう一度言う。俺と結婚してくれ。」 「ちょっ、、」 「高嶺。俺と結婚してくれよ。」 「泰幸君、、」 「結婚しろぉっっ!!!」 両肩をがっしりと掴まれ狂気に囚われた泰幸君の顔が私の目の前迄迫っていた。
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