情なのかな

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は~あぁ。今日も働いたな~…って誰だっけこの人。見覚えある様な無いような。でもかなりのイケメンじゃないの。 私は帰り支度を済ませ更衣室を出ると黒いスーツを着こなし壁に寄り掛かっている男性とすれ違った。 「あのすみません。」 男性の前を通り過ぎると声を掛けられた。 「はいっ。」 まさか声を掛けられるなんてと思い声が大きくなってしまう。 「私。高嶺雅様のボディガードの菊田礼二と申します。中に雅様はまだいらっしゃいますか?」 「ボ、ボディガード!?」 「はい。」 「あっ!思い出した。前に高嶺さんと並んで歩いてるのを見ました。なんか凄く格好良い人だなって思ってて。だけどその時彼氏居ないって聞いてたんでてっきりホテルの関係者の方かなんかだと…あ、高嶺さんはもう帰りましたけど。」 「帰ったんですか?」 「ええ。あの知り合いの方が待っていたので正面エントランスに行きましたよきっと。」 「その、知り合いというのはご存じですか?」 「はい。爽やかな笑顔の持ち主のあれは…泰幸君と呼んでましたかね。」 「そういう事でしたか。ありがとうございます。では。」 「いえ、さ、さようならぁ。」 本当格好良いわ…。 ───────────。 はぁっ!? 泰幸君のとこに行くなんて聞いてねぇぞっ。って言うか俺に一声掛けるのが筋だろ普通は。扉開けりゃ直ぐに居るんだしよ。勝手な行動取りやがってまったく。 カツカツと小走りしながら正面エントランスに急ぐ。でも少し走れば息が上がりたまに腹部の傷口がズキンと痛むが構っている余裕など無い。まだ復帰して日も浅い為体も傷口も俺の意思に反抗している様だ。 正面エントランスに着き側にあるソファ等をまず見渡す。居ないと分かると次に自動ドアを出て右往左往しながら探すが二人の姿は見つからない。 駅へ向かったのか…? 俺はそう予想してズキンと痛む傷口を庇う事無く駅へ走った。 ───────────。 掴まれた肩が物凄く痛くて骨が砕けるんじゃ無いかって思ったらジワッと涙が溢れてきて絞り出した声で何とか訴える。  「痛いっ…。グスン。」 すると意外にも素直に手を離した泰幸君は再びハンドルを握りアクセルを踏んだ。泰幸君は私を何処に連れて行く気でいるのだろうかと頭では思っていてもこの顔付きを見たらとてもそんな事言い出せなかった。泰幸君も前を向き黙ったままひたすら運転をしていく。今、私の隣に居る泰幸君がこんな風に豹変してしまったなんて信じられない。優しさの欠片も見当たらない。ただあるのは狂気と恐怖だけ。 この人は一体誰なの? 私は流れる涙を拭く為鞄をあさるとスマホが目に飛び込んできた。はっとして思わず鞄の中でディスプレイを点灯させ礼二に電話を掛けた。 「何してんの?」 前を見たまま泰幸君がボソッと言った。 「ハンカチ…を…出そうと。」 私は手にしたハンカチを鞄の中からゆっくりと出して見せた。電話はまだ切らないままで。 「言っとくけど今日は高嶺が俺と結婚するって言う迄俺と一緒に居てもらうから。だからあのボディーガードとかに連絡なんかするなよ。もししたら…俺何するか分からないぜ。」 顔はそのまま前を向き鋭い目だけで私を見てきた。私は金縛りにでもあったみたいに恐怖で体が動かない。この雰囲気。やはり尋常では無い。多分こちらが正論を言った所で納得する様な人ではもはや無くなっている。そんな事をしたら今言った通り何をしてくるか分からない。私が見てきた泰幸君は本当にもう居ないの?頭の中はそればかりでどうしても横に居る泰幸君を受け入れられずに居た。 暫く走らせると何時の間にか高速の入り口に居た。高速に乗るなんて遠くに連れて行く気なんだ。さっき電話を掛けたけど泰幸君に話し掛けられたせいで上手い事繋がっているかは確認出来ず不明だ。だけどきっと礼二は電話に気が付き二人の会話を聞いてくれていて私達の様子を察知してくれているはず。そう信じたい。 礼二…助けて────。 はぁっ、はぁっ、はぁ…。 改札もホームにも居ねぇな…ったく。 ん? 胸ポケットに入れてあるスマホが振動している。ディスプレイを見ると雅からの着信。 やっとかよ、遅えぞ。 はい、もしもしぃ??お前泰幸と会うなら俺に言ってけって…聞いてんのか? 雅の声は聞こえ無い。だけど遠くで誰かが話している。俺は胸がザワッとしスマホに耳を押し付ける。すると男性ともう一人は女性で雅の声だと分かった。 …おいおい、この聞き覚えのある声やっぱり泰幸かっ!?頭おかしいぞこいつっっ。 雅───────。
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